Message代表メッセージ

2012.12.01

井笠鉄道破綻から明らかになった政策課題 -パート3 – 現状の国庫補助金の制度では井笠鉄道破綻のバス路線は再建できない-

両備グループ代表:CEO
小嶋光信

                              

来年の4月以降、道路運送法第4条での再建は、公設民託でなければ成功しないと前回の「井笠鉄道の破綻は井笠鉄道だけの問題ではない!-井笠鉄道バス路線再建案-Ver.3」で問題提起した。
しかし、現行の国庫補助金の制度では、補助金は赤字補てんであり、健全経営による再生を目指す民託の場合は、地域行政の支出も収入となり赤字が出ないスキームなため対象とならないことになる。

補助金そのものは、今回のような前例のない破綻例である、全ての路線が赤字で、それも収支率が50%しかないような事態での救済を目的としたものではなく、あくまで一時的また、一部の赤字補填を想定しているために、救済には適用が不味となってしまう。

本来、井笠鉄道は補助金のスキームで支えられずに破綻したのだから、簡単に言えば現行の補助金制度のやり方ではまた潰れるだけで再建出来ないということになる。
したがって、今回の再建スキームは唯一「公設民託」の方法しか考えられないということが結論だと申し上げた。

今までの民設民営の交通事業は民間企業だから企業の意志で経営される。公設民託は、行政が中心となり、市民の意見や要望に従って路線網の整備をし、運行を交通事業者に委託するので、より市民主体の公共交通に出来るメリットがある。

補助金制度は本来カンフル注射であり、延命維持装置の役割と言え、その役割としては場合によっては有効だ。しかし、前述のように、井笠鉄道のバス路線は、全ての路線が赤字で、その切れ方も50%もの赤字という状況は既に補助金の想定を越えてしまっていて、生命維持装置での延命は無理だったのだ。

補助金そのものは赤字補填であり、健全な経営にならないし、それを目的にしたものでもない。補助金は後払いだから資金繰りがつかないことから、補助金制度での再建は、利益の見込みも発展もない。その上資金が場合によっては1年後という全く経営問題を考慮しておらず、現実的には考えられない。

利益も出ず、配当も出す見込みもない企業に金融庁は各銀行に融資してはいけないと厳しく言っているから、この再建企業は最初から資金詰まりの破綻型企業になってしまう。

長期的に安全・安心な公共交通としての足を市民に提供するには、経営が健全で、長期的な展望のある企業体質で無くてはならず、現行の補助金型の企業ではそれは望めない。

民託は適正なコストで委託を受けるもので、固定しているから経営が不味ければ赤字になるし、経営が適切なら利益がでる。利益が出るかどうかは企業努力による。この企業努力を奨めることが今回の改革で最も重要な要件だ。

交通運輸業は、何時でも交通事故のリスクを抱えているから必ず儲かることなどありえない。
交通運輸業の実態を知っている方は、交通事故の恐ろしさを知っているから、このリスクに耐え得る企業体質は、保険だけでなくかなりの利益を自己資本として蓄えておかなくてはならない
ことが分かっている。10円単位の運賃で、もし死亡事故がおこれば、責任は金銭に代えがたく、一人に対して数億円の保証がいるかもしれない事業を利益も出ないのに軽い気持ちで請負う企業は、無責任な経営になってしまう。
高速ツアーバスの大事故のように、いざとなったら会社を潰し、また違う社名で事業をするようなことは、地域の公共交通を預かっている会社には出来ない。

一方補助金は赤字の出方で変動するので、どんなに経営が不味くても赤字は出ない。経営努力してもしなくても結果は損益零で同じなので、経費の節減意欲が沸かず、最終的には補助金方式の方が支出が増える傾向にある。経営努力ではなく、補助金を増やそうとする経営のモラルハザードを起こす懸念もある。

今回の緊急代替運行は21条適用による委託運行ながら、国庫補助金の対象にしていただいたのに通常の4条乗合事業許可では対象外になると言うことも、腑に落ちない。

国庫補助金が出ないということは、地方自治体が代わって出さざるを得なくなる。それでなくても地方自治体は財政難であり、無い袖は振れないなどと、路線の大幅縮小などで公共交通のネットワークが総崩れとなる懸念があり、社会問題化の恐れがある。公設民託でも補助金相当額を生活交通サバイバルで地方自治体へ特別交付金として支給するとか、対応策を至急検討しなければ手遅れになるし、現行法では今後この種の破綻の場合には救う道はなく、対応が出来ないことになる。

2012.11.27
2012.12.01 改訂

両備グループ
中国バス

関連リンク
「井笠鉄道の破綻は井笠鉄道だけの問題ではない!-井笠鉄道バス路線再建案-Ver.3」
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