井笠鉄道の破綻は井笠鉄道だけの問題ではない!-井笠鉄道バス路線再建案-Ver.3

両備グループ代表・CEO
小嶋光信

[2012年11月02日16:46更新 Ver.3] [2012年10月22日14:50更新 Ver.2] [2012年10月18日17:40更新 Ver.1]

10月12日に発せられた井笠鉄道バスの事業廃止による路線バス廃止の報は、岡山県、広島県の公共交通事業者や行政、市民のみならず、全国の事業者と関係行政に戦慄を与えた。
廃止が10月31日と差し迫っているばかりでなく、自主整理や更生法ではなく、全国でも稀な経営破綻ということで幕引きが行われることになったからだ。

2002年の規制緩和までは、公共交通事業者は補助金に支えられて潰れないと思われていたし、銀行も躊躇なく資金供与をしてくれた。
規制緩和後、全国の数十社が事業に行き詰ったが、事前に自主整理や更生法で再生されていて、あたかも何もなかったかのように路線の縮小や合理化で再生されていたため、本当の構造問題が理解されないまま、今日に至ってしまった。

両備グループで再生された中国バスや鉄道部門での和歌山電鐵などを通じた地域公共交通の課題を書き下ろした拙著『日本一のローカル線をつくる―たま駅長に学ぶ公共交通の再生―』(学芸出版社刊/平成24年2月出版)に、全国の地域公共交通の現状と、如何に問題が大きいかと、国家としての対策を提言している。

その中の一部を引用してみよう。

P143からの抜粋 : 危機に瀕している地方の公共交通を、現状の延命策から将来に希望の持てる公共交通に思い切って転換することが大事だからです。ただ、行政サイドはいまだに延命的な行政対応で済むのではないか、他に方法がないのではないかと思っている方々が多いので、是非和歌山電鐵や中国バスの事例とともに、地方の実態を見ていただきたいし、地方の公共交通の経営者の生の声を聞いていただきたいと思います。
皆が必死になって、地域の足を守っているのです。自分たちが補助金や国の支援で儲けようなどというやましい気持ちの公共交通事業者は、私の知る限り皆無です。将来の見通しもなく、半ば絶望しながらも、地域の交通を必死で支えているのです。その悲痛な声をぜひ聴いていただきたいと思います。

P170からの抜粋 : 規制緩和後多くの地方鉄道やバスが倒れ、再生されています。しかし、少子高齢化と地域力の減退で、根本的な利用者の流れが改善されていないので、再び倒産の懸念があります。現在は、一部路線の補助金による延命と路線のカットで、なんとか生きながらえているだけの状態です。・・・・(中略)・・・・この5年から10年で、赤字の地域公共交通の大半が再び厳しい経営状態になり、50%くらいの路線や会社は潰れるかもしれません。今までの私の分析はほとんど当たっているのですが、この予測は外れてほしいと思います。

と予告していた。

2002年の規制緩和で、地方の実情をご存知ない政治家が、アメリカでのフリードマン説を日本的に咀嚼せずに国内に運用したと思われる諸方策の一つ、「規制緩和」によって、公共交通は免許事業から許可事業になり、補助金の支えがほとんどなくなり、「儲からない路線はやめるべき」と、路線の退出が自由になり、辞めるのも勝手なら、参入も自由という現在の病巣を作る行政に転換してしまったのだ。その結果が多くの公共交通事業者の倒産と再生であり、今度の結果だ。

今日のために、何とかこの規制緩和の無責任な流れを変えるべく、数々の再生の実例から、行政と法の対策をお願いし、そして「交通基本法」が昨年3月に閣議決定され、これで流れが変わるかと思いきや、政局の混迷で、国会では法案が成立しなかった。誰のために政治をしているのか是非考えていただきたい。国民のための政治などと今日の国会の状況で言えるのか、はなはだ残念な状況だ。これは、地方の現状を知らずにミスリードした政治の疎漏ではないか?

私は、今まで必死に地域を守ってこられた井笠鉄道さんに、本当に心から敬意を表します。
彼らの苦悩を思うと、同業者として慚愧の念を禁じ得ない。
昨年末から賞与の支払い遅延、今年になって賃金の支払い遅延、背景に10数億円という退職金債務の不払いなど噂がたっていたので、今年末には危ないかと思っていたが、何かあっても更生法か、何らかの再生で対策には時間があると思っていた。また、この7月に、岡山県バス協会の総会の前に関藤社長が来社され「何かあったら路線だけは守ってほしい」という悲痛な叫びは聞いていたが、こんなに早くなるとは思わなかった。
この関藤社長の気持ちを受け止めて、両備グループ総力をあげて路線の救援に当たることにした。

今回の再生は、

A:道路運送法第21条1項による緊急措置として、暫定的に3月31日まで、一部並行する路線を有する両備グループの㈱中国バスが、代替え措置として市民の交通の確保のために路線運行で対応する。
破綻発表のあった10月12日に、両備グループ内に井笠鉄道バス路線救援対策本部(本部長:小嶋光信)を設置し、15日の行政からの代替え運行依頼に基づき、16日中国運輸局岡山支局に緊急を要する代替え輸送の申請をした。
具体的な路線は、17日の行政の会議で決められる、18日に中国バスに正式に伝達されるので、その具体的路線で、路線バス車両や運転手の確保を図る。

B:来年4月1日からは、新たな「公設民託」でのスキームとして、道路運送法第4条による運行を検討するように提案している。

今回のように2段階の対応をせざるを得なかったのは、下記の理由からだ。

  1. 本来半年くらいかかってする移行作業を、時間的余裕がなく、20日くらいでしなくてはならず、再建スキームが確定しないが、市民の足を守るため緊急避難として暫定的に運行をせざるを得ないこと。
  2. 条件が確定せず、道路運送法第4条での申請が困難で、緊急措置として道路運送法第21条での対応がベストであること。

参考:道路運送法 第21条  一般貸切旅客自動車運送事業者及び一般乗用旅客自動車運送事業者は、次に掲げる場合に限り、乗合旅客の運送をすることができる。
一  災害の場合その他緊急を要するとき。
二  一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、一時的な需要のために国土交通大臣の許可を受けて地域及び期間を限定して行うとき。

C:このような企業破綻による緊急対応は、全国初のことであり、行政と事業者の超法規的な英知と勇気と努力が要るといえる。

D:今回のような事例は、規制緩和の検証と交通基本法などの法と財源の整備を早急に図らねば、今後、全国で多くの破綻が起こる警鐘といえる。

民設民営での再建が不可能な理由は次の通り

  1. 収益を支える路線が皆無なこと。収支率が50%程度と極めて悪く、経費の半分も収入がなければ、民営は不可能だ。
  2. 少子高齢化で今後の旅客も減少を続けると予想されること。
  3. 赤字路線を支える収益を産む付帯事業が皆無なこと。観光バス、高速バスが若干の黒字のように見えるが、精査すると実態はトントンくらいの事業で、赤字路線を支える力はない。
  4. 補助金は企業の利益を産むことはなく、車両等の投資をする能力が全くなく、また車齢が20年超のバス車両が多く、今後の代替えの目処も立たない。従って、資産を保有する企業能力が生まれない。これが土地、建物、バスなどの固定資産を保有できない経営的理由だ。
  5. 補助金は後払いで、その間に支払われる人件費や燃料費などの支払い資金がなく、担保もないため借り入れが出来ない。従って、運営する資金が銀行から借りられず、補助金制度では再建できない。

以上から更正法の適用は無理で、破産という全国でも稀な公共交通企業の破綻の道を取らざるを得なくなった。
前述のように、関藤社長からの要請、笠岡市や福山市並びに岡山県からの緊急対応依頼が、この10月15日に三島笠岡市長が代表で来社されて表明され、また中国運輸局かからも中国バスでの救済の示唆があり、地域の通学や高齢者の足の確保のため、緊急避難措置として下記の対応をすることにした。

今回の破綻で、路線再建に必要な経営問題の根本的な改善は基本的に無理なため、路線再建は民設民営で新たな私企業で行うことは不可能といえる。また行政も公設公営で対応できる余裕や経験がないとともに、出来ても非効率になる懸念がある。

公共交通の経営は、大きくいって4パターンあるといえる。

経営方式 内 容
公設公営(公有公営)方式 土地、建物とバスや電車などの設備(今後、輸送手段という)輸送手段を公が設置し、自ら運行するパターン。
この方式はヨーロッパや日本でも旧来多く取られたが、サービスが悪く、公務員給与との関係で賃金コストや労務管理上の問題が起こり、特に数台の公営バスでは、予備運転手を確保せざるを得なく、労務管理上かなりお荷物になる懸念がある方式だ。
民設民営方式 民間企業が輸送手段を保有し、自らの責任で運行するパターン。日本ではこの方式が公共交通では常識と思われている。
この方式は、お客様の多い大都市や、地方都市中心部や、主要地方拠点を結ぶ郊外バスの経営では黒字化が可能なケースがあり、日本では一般的なパターン。
収支率が100%を超え、自ら設備投資能力がある経営となるが、実際日本では東京、大阪、名古屋などの超大都市でしか、バスを自分で購入し、新たな設備投資をする能力はほとんどないであろう。
公設民営(公有民営)方式 公が輸送手段を保有し、民間企業が運行を行うパターン。
輸送手段を持つ能力がなく、その費用を補助金で賄われている民設民営会社の場合、補助金を出す代わりに、輸送手段を肩代わりして、収支率を100%以上に保ち、経営努力で利益を生む体質に転換する、今後の理想的パターン。バス車両の場合は長期リースとして事業者が取得し、その経費を公が負担する場合もある。
本来補助金は補助的に、且つ短期的に支えるシステムで、恒常的な補助は好ましくない。経営や労使間のモラルハザードを招来し、効率的また健全な経営にならないので、再生の場合は、補助金から、この方式に切り替えることが望ましい。この方式で行なえば経営の効率化が図られるようになる。鉄道では、和歌山電鉄の事例から、地域公共交通活性化法により、公有民営が認められ、若桜鉄道などが再構築されている。
公設民託(公有民託)方式(私の造語) 公が輸送手段である土地建物やバスを保有し、民間企業に運行を委託するパターン。
収支率が極めて悪く、輸送手段を肩代わりも出来ず、収支も黒字が達成できず、路線の維持が出来ない場合、過疎化が進む地方都市や、大都市でも郊外の再建や再生の路線維持などに取らざるを得ないパターン。
この場合は、土地や建物やバスを再建するために事業者に取得しろと言っても、その取得費がまかなえず、何処も再生する事業者は現れないことになる。儲からない、投資回収できない事業に投資する者はいない。
バス車両の場合は長期リースとして事業者が取得し、その経費を公が負担する場合もある。
新たに再生する場合、補助金ではなく委託料で支払われる。補助金とは、企業への赤字補てんである。補助金を受け取る企業は、経費節減などの努力をしても、補助金を減らされるだけなので、経営者は、努力の方向をむしろ赤字の拡大に向けて補助金取得を増やそうとするモラルハザードを起こしてしまう。お客様の方に顔を向けず、行政の顔色で仕事をするようになってしまうのだ。固定した委託料なら、経営者は効率的な経営をして利益を生むように努力する。
利益というと上手いことをすると思う人が多いが、利益のない企業は存在しえない。また、利益の約半分は租税となり、国民、国家に還流し、更に企業の投資を誘発し、結果効率的になる。委託事業でも、租税のシステムを通じて、半分は国や地方行政への税金、半分は企業の利益ということで、国と業者のジョイントベンチャーのようなものだ。適正利潤以上なら、次回の契約時に調整が行われ、適正な委託料になる。
また、この方式の場合は、事故率や、地域住民からのサービスの苦情、安定的に運行を維持する経営能力などが定期的に行政から審査されることになる。
雇用の安定もあり、通常10年間の委託が一般的だ。

日本では、民設民営が当たり前だが、日本の常識は世界の非常識で、先進諸国で地域の公共交通を民間に任せ切った国は、日本以外ないといえる。理由は採算が取れない事業なので当たり前であり、日本は公共交通のガラパゴスなのだ。
この辺のところの詳しい説明は、学芸出版社発行、拙著の「日本一心豊かなローカル線をつくる」を読んでいただくと、理由が分かる。

これらの経営パターンから、今回の路線再建スキームは、収支率50%前後で、再生をする事業者が輸送設備を保有できないので、公設民託方式を取らざるを得ない。しかし、この方式を前提にしても、いっぺんに路線再建は出来ず、2段階のステップを踏むことになる。

緊急避難としての第一段階 : 破綻から来年3月末まで

中国バスに「井笠バスカンパニー」を11月1日に社内分社として設立し、緊急代替え運行を行う。

基本的な再建スキームは公設民託方式を取らざるを得ない。

前述のように、公設民営は加重債務を除去したり、コスト構造を切り下げたり、一部の不採算路線をやめたりすることで、収支率が100%以上の確保が期待される場合だが、今回の井笠鉄道の場合は、収支率が極めて悪く、民営の可能性がない。

  1. 公設ということであり、各行政で、バス、駐車場、整備場、営業所などのハ-ドを、債権者の同意で第一段階として営業停止の時点から使えるように確保していただくことが前提になる。ただ、これらの交渉をしている時間的余裕がないため、緊急避難の間は、井笠鉄道の債権者の同意を得て、バスや設備を借りることが必要になる。
    従って債権者がこれらの同意をするかが、再建のキーポイントになる。
  2. 現在の井笠鉄道の運転手確保が11月1日より出来るような状況にあること。
    基本的に、バスの確保と現状の路線を知る乗務員の確保が出来なければ、路線維持は極めて困難といえる。
  3. 継続する路線や系統は、全てを残すことは困難で、通学を中心に約半分が対象となる。
    以上のように、公設民託をベースに、バスや運行に関わる設備は行政で先方と交渉して使えるようにし、運行は委託運行の形式をとらざるを得ないといえる。

民託の理由は、
あ)通学を中心に路線を半減されるが、採算は更に悪化が予想され、収入悪化の見当がつかない。
い)現在の補助金制度の一括後払いでは、委託運行の経費の捻出が出来ず、毎月委託費用の清算をお願いせざるを得ないこと。
う)時間的制約から中国バスの路線延長を道路運送法21条の適用をして行わざるを得ないこと。

第二段階:来年4月よりの長期的再建スキーム

  1. 実績により、公設公営か公設民託か公設民営のスキ-ムの確定をする。
  2. 車庫や営業所、車両などの公設としての課題整理をする…少なくとも11月末までに
  3. 引き続き両備グループで引き受けることが出来るか、事業者の確定…12月中旬
  4. 両備グループで引き続き行うことになれば、民託か民営かの状況を踏まえ、中国バスから緊急避難の路線事業を別会社に分離する…上記確定次第
  5. 暫定的な路線を、運行実績で再度検討して確定し、第4条本格運行の申請…12月末まで
  6. 4月1日から新たな事業として開始する。

上記のツメが遅れる場合は、暫定期間の延長も視野に、可及的速やかに課題解決することになる。

「雨降って地固まる」の例えのように、この井笠鉄道の事例が契機になり、実態として如何に地域公共交通の抜本的対策を国家でするかの本質的な議論になり、交通基本法の成立とともに、将来を見据えた法改正や、財源の確保になることを切望する。
安心して暮らせる地域として、公共交通の役割がこれからも大切であるということが再認識されることを祈っている。

以上

緊急提言 : 今回の教訓で、何よりも交通基本法の制定と財源確保が国家の課題だ

両備グループ
中国バス