両備グループ代表・CEO
小嶋光信
あけましておめでとうございます! ご家族お揃いで良いお正月を迎えられたことと思います。
昨年はネクスト100年に向けて、会長5方針を示して、大企業並みの企業体質と経営力づくりを中小企業並みのコストでキャッチアップする3カ年計画をスタートしました。
社会へ貢献し、「お客様第一」で喜んでいただける仕事を長くお客様に提供し、そして何より、働く皆さんが一生両備で働いて良かったな、人生の幸せを自ら掴めたなと思える会社にするためには、時代の荒波を越えて元気に存在し続ける企業になる必要があります。
正直、日本の政治も経済もこの20年来パッとしませんでしたが、両備グループとしては、この10数年、特に昨年はとても手応えを感じた年でした。それも、社員の皆さんの努力と労使が一丸となって取り組んだお陰と感謝しています。
どこの企業でも経営方針は、なかなか皆さんに浸透せず、実際の企業行動に結びつかないのが常ですが、昨年の「すぐやる・必ずやる・出来るまでやる」という経営方針は、行動規範に示した「知行合一(良いと思うことは必ず実行する)」と結びついて、合い言葉のように各職場で語られ、地方企業の最大の問題であるスピード感のない経営に風穴をあけてくれました。
大企業並みの企業体質と経営力のキャッチアップで、やることが遅いという最も大きな問題を解決する第一歩が出来ましたので、今年から「すぐやる・必ずやる・出来るまでやる」を両備グループ行動規範の「知行合一」に加えて恒久的な行動規範とすることにしました。
「忠恕」は誰に向かってするものか?
昨年、企業体質と経営力を作り込むために、両備グループの経営理念である「忠恕」の精神を全社員に理解していただこうと、両備教育センターで講座の開講をしました。
そこで分かったことは、「忠恕=真心からの思いやり」ということは理解しているのですが、誰に思いやりを発揮すべきかが理解されていなかったということです。「忠恕」でいう「思いやり」は、自分以外の相手の身になって物事を考えることなのですが、その当たり前のことが今一つ理解されず、希薄なために行動に移り難くなっていることが分かりました。当然、常識だと思うことが、年代によってズレているのです。
孔子の「忠恕」の教えも、その根底にあるものは実は家族や身内への思いやりだったのですが、孔子から170年ほど後の世の孟子という儒学者は、時代が変わって孔子の時代よりも他人が集まる都市社会となり、思いやりが身内にしか向けられないことによる弊害を憂いました。思いやりを誰にでも広く発揮するように、相手を自分の祖父母や両親、子どもたち…、すなわち自分の身内と考えて、どのように思いやりを発揮するかを考えることが大切ですと説いています。お客様やお取引先、そして、日々接する同僚を自分の家族と同じように思って「忠恕」の精神を発揮することが大事なのです。
自分の立場が相手より上だから偉そうにする、逆に、相手が自分より偉ければ媚びへつらうのでは、真の意味で「忠恕」の発揮にはならないのです。私がたびたび、宅配便の配達の人が来ても立ち上がって笑顔で「いらっしゃいませ」と言えなければ本物の接客でない、というのはそのためです。
立場が下の人は呼び捨てにする、若い相手は君呼びし、立場が上の相手なら「さん」付けする。そんな面倒なことはやめましょう。みんな大事な人なのですから、「さん」付け一本で良いじゃないですか。
交通運輸部門で起こる職場トラブルのひとつに休暇の依頼があります。現場はやりくりが困るので厳しく言いますが、どうしても必要な場合や健康上の時では「忠恕」の精神でまず聞いてあげることが大事です。もちろん、休暇を依頼する側も、横着で休みを願い出るのではなく、自分が抜けたら周囲のみんなに迷惑をかけるな…という気持ちでお願いすれば、大抵のことは丸く納まるのです。
地方都市では、兼業で農業をしながら勤務してくれている社員もたくさんいます。兼業農家なら、田植えや稲刈りなど、農作業の繁忙シーズンにしなくてはならないことが決まっているので、事前に巧くやりくりをするようにすれば、思いやりの気持ちで十分調整出来るのです。
両備グループでは、農業は最も大事な仕事のひとつだと思っていますので、兼業農家の社員の勤務を考えて、年間の休日をしっかり考慮するよう、人事部と現場に指示していますから安心して働いてください。
この4~5年に入社した皆さんは、「忠恕」の精神(思いやりの心)のない人は採用されていないといえるでしょうし、就業規則にも「忠恕」を盛り込んでいますので、今までのような精神訓ではなく、働く上での約束であることを理解して実践していただきたいと思います。一番の問題は、勤続年数が長いCOOや幹部も含めて、各職場でリーダーシップを取る皆さんが、本当に理解し実践するかです。
小説「上杉鷹山」で有名な作家である童門冬二さんが、リーダーに必要な要素は、先見性や判断力、情報力など様々あるが、共通するのはヒューマニズムであり、常に相手の身になって物事を考える「恕」の精神だと、ある講演会で言われました。近江商人の「売り手良し・買い手良し・世間良し」の「三方良し」の精神も「恕」の延長線上にあると喝破されました。思いやりや優しさは部下を統率する有力な武器になるのです。偉そうにしたり、権力を振るったりしてもリーダーシップにはならないのです。その講演を聞き終えたら、出席されていた100名以上の岡山の経営者の皆さんが「今日の話は両備の小嶋さんの話だったな」と異口同音に言われたのには、心密かに嬉しかったです。外部から評価していただいているように、内部で本当に出来ているように頑張らなくてはなりません。
従って、今年の経営方針は、
「忠恕の実践
思う・感じる・配慮する 」
と致します。
「忠恕」を実践するには、まず相手のことを思う、こうしたら相手はどう思うかを感じる、そして、相手への配慮で善意の気配りをすることで、素晴らしい思いやりが実践できます。思うだけでは三流で、感じるまででは二流で、配慮が出来て初めて一流です。
孔子が説くように「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」が思いであり、気配りなのです。「忠恕」の実践で思いやりあふれる、明るく豊かな職場を作りましょう。
井笠鉄道破綻による緊急代替え輸送
昨年中の「忠恕」の発揮と言えば、井笠鉄道が10月12日に破綻表明し、1カ月もない10月31日をもって井笠地域や福山市のバス路線がなくなるという大事件が起きました。私が昨年2月に出版した『日本一のローカル線をつくる』で、70%以上が赤字の地域公共交通のうち、50%がこの5年以内に倒産する心配がありますよと指摘していたことが現実に起こってしまったのです。
井笠鉄道の関藤社長や、国・県・市・町などの行政からの代替え運行の緊急依頼を受けて、両備グループが再建した中国バスが平行した路線を有していることもあり、緊急支援に乗り出しました。通常半年くらいかかる準備期間も今回はほとんどなく、破綻したバス路線の再建を20日足らずで行なうことは至難の技ですが、行政の皆さんも両備グループのメンバーも最善の努力をして、11月1日からの緊急代替え輸送を無事始めることが出来ました。
スムーズに運んでいると見えたでしょうが、緊急代替え輸送に必要な乗務社員を井笠鉄道から雇い入れしなければいけないところ、必要人員60名の確保ができて、10月26日に記者発表も済み、やれやれと思った途端、大変悪質な業務妨害があり、確保していた人員の半数の30名に辞退されてしまいました。万事休すの状況ですが、即座にその報告の現場確認と調査をして、これはすぐに解決できないと分かり、大型二種を持っているグループ内の各社へ緊急に応援を要請して、たった4日でこの難局を乗り切りました。バス各社、タクシー各社とトランスポ-ト各社の労使が必死に、井笠バスのことを我がこととして応援してくれたおかげです。特に両備トランスポ-トカンパニーでは、両備グループによる緊急代替え輸送を意気に感じて全国から役に立ちたいと応募してくれ、「忠恕」の精神と「知行合一」が全国の職場で育まれていると心打たれました。両備グループの労使は最高です。
今回の一件はこれまでに前例がなく、法律にもない「公設民託」による再建の処方箋を書いて、関係各位へご提案しています。実現すれば、きっと、日本で初めての地域公共交通の再建事例となり、全国で今後起こるであろう、多くの公共交通事業者の経営破綻に対する救済例としてお役に立つでしょう。
大企業並みの企業体質と企業力の要は「人材力」
昨年、大企業並みの企業力を中小企業並みのコストと効率化で達成するための3カ年の会長方針を示しました。今年はその2年目です。
この3カ年で、社員を大企業並の人材に育て上げることが出来るかは、その仕事の精通度、やる気とスピード感が大事ということが理解出来るかです。現在、皆さんも、あと2年間で大企業並の人材力をキャッチアップするために様々な研修や資格取得に努めてくれていることと思います。特に総合職と管理職は、必要な知識、能力と経験が示され、来年末には最終のチェックを受けることになっています。そこで今年末は1年前での事前チェックをして、どこに問題や不足があって、今後、どのように努力をすれば良いかを示して、全員、能力主義的安心雇用による適材適所となるように運用していきます。
大手並みの人材力の育成には、簡単にいうと業務知識と法律知識をしっかり持っていて、やる気一杯の現場管理職が必要不可欠です。他人に厳しい人ほど自己査定に甘いし、謙虚さと反省が足りないケースが多いのです。
中には人事労務の試験で、勉強不足で知識の無い人が、自分の成績が悪かったので逆ギレするケースもありました。大手なら、その抜き打ち試験で駄目なら駄目であるという厳しさが分かっていないのです。
2年後に再度職責、身分の再チェックをします。このままでは多くの社員が目先の作業ばかりで仕事の本質、業務知識、法令知識が不足してしまうので、前述のように今年末仮テストをします。自身の足りないところ、努力すべきところ、良いところをもっと伸ばせるように、事前に各自の現状が分かるようにします。
課長職以上は、簿記3級を必ず取得するということは、今後は係長職の時までに受講・取得していなければ、次へは進めないと理解してください。
今後の管理職の必要知識とは、
- 経理知識と計数管理
- 人事労務の法的知識と社員管理
- 業務の法的知識と業務知識
- リーダーシップ
- 健康とやる気
- 過去の実績
の項目が重要です。
両備グループ連結決算は、この3月期で実行
これまでに、企業体質や企業力、経営力としてグループの連結決算を進めていましたが、両備グループ財務委員会を中心とした各社の努力で、予定より1年早く、この3月期決算で出来るまでにスピードアップしました。これも、「すぐやる」精神の発揮です。
ベトナムへの進出が実現
首都圏への進出も根付いて、1000名を超える事業集団に育ってきましたので、アジアへの進出を昨年決意しました。現地における人脈や事業パートナー、現実の仕事がない海外進出は成就しませんが、この10数年、現地での人脈を大事にしてきたミャンマーや、実際の事業を大切なお取引先からご指名いただいたベトナムで、よく1年でここまで進められたと思うほど結果を出せました。
例えば、両備ホールディングスの駐在員事務所が昨年12月28日に承認され、2名を日本から派遣し、
- ベトナムの物流市場のマーケティング
- 地場企業との業務提携候補選定
- 日本企業向け通関業務受け(日本側で受託)
- ベトナム⇒日本、日本国内の物流、保管業務受け(日本側で受託)
の業務を開始し、今年の6月までに現地法人化の予定です。
今後10年、20年先のアジアでの基礎が出来てきていると思います。良いと思う事は「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」精神が遺憾なく発揮されています。
昨年の成果の数々
昨年、嬉しかったことはまだまだあります。
たま駅長就任の5周年祝いにニタマ駅長を部下に任命したことで、更に和歌山電鐵がパワーアップしました。たま駅長と和歌山電鐵のサポーター企業が、全国的なコマーシャルにたま駅長とおもちゃ電車を登場させてくれて、テレビ放映とともに大反響となり、大いに宣伝にもなりました。全国の猫族からヤンヤの喝采です!
それに加え、
○キャリアアップの研修に自発的参加が増加
○「すぐやる」が定着し、効果を発揮
○番町(岡山市北区)の町内会長から両備商事の朝の清掃が素晴らしい、社員教育が良いと評価
全社的に、各職場で「忠恕」の発揮の芽が出てきています。
その他にも、具体的な成果が目白押しの1年でした。
○グループの全女性社員で結成するKiraRi(キラリ)のキックオフ
生活関連部門では、
○両備ストアカンパニー商品開発部が手がけたプライベートブランド「岡山和風ラーメン」が
「第1回 スーパーマーケットお弁当・お惣菜大賞」麺部門にて準大賞を獲得
○JB活動としてココロボ(シャープのロボット家電)130%の売上成果
○グループシナジーを活かしたBIGPADフェアの成功
情報グループでは、
○両備システムズのソフトウエア事業部が2011年度下期の富士通パートナー評価制度(SPR)で、
第1位の評価
○ETロボコンで両備システムズの女性チーム「team TAMA“華”」が中四国の第1位
(エクセレントモデル)を獲得
バス、観光グループでは、
○ニッコー観光バスの両備グループ入り
○両備スカイサービスカンパニーが、JALの平成23年 定時出発率日本一を獲得
○全日空の店舗ディスプレイコンクールにおいて、両備バス玉野観光センターと県庁通り観光センターが「スカイホリデーびいきで賞」を受賞、両備スカイプラザは「手作りPOP&ポスター賞」を受賞
○中国バスに導入されたドリームスリーパーの開発
○両備ツアーズが中国遼寧省丹東市旅遊局との業務提携覚書締結
○倉敷市でのタクシー共同配車スタート
教育と訓練は違う
安全・サービス・生産性の向上にはスキルアップが必須ですが、イマイチ、安全やサービス面で壁にぶつかっているのは、教育と訓練の違いを理解していないからです。訓練は体で覚えるまでやることが大事で、1~2度口で言うだけでは「訓練」ではないのです。体で覚えるまで徹底して行わないから中途半端なのです。一方、教育は頭で理解して、行動に移せ、応用が効くまで教え込むのが「教育」なのです。
基本的に、管理職だけが管理するのでなく、自己管理が出来るように管理職が現場を訓練し教育することが両備グループでは大事なのです。
両備型の労使強存共栄思想が労使繁栄の礎
井笠鉄道の経営破綻を受けて、その再建過程で明らかになったことは、険悪な労使関係で給与や賞与、退職金まで支払えずに倒産する責任は経営者だけでなく、労働者側の長い過去の非協力という対応にも問題があったと言わざるを得ないでしょう。今回、井笠鉄道からの採用に当たって、中国バスで続かなかったために井笠鉄道に移った一部乗務社員が流した悪質な噂の中に、「中国バスになったら厳しいぞ」と言う脅しがありました。かつての中国バスも、昨年の井笠鉄道も、厳しくなかったから給与や賞与、退職金が支払えなくなったという事実を知らなければなりません。両備が厳しいと言われるのは、実は法によって定められている、当たり前のことをしているだけで、それ以上のことは無いのです。人命を預かる企業として当たり前のことをしないから破綻した、または、強すぎる組合が会社に然るべき対策をさせなかった結果だと知らなくてはなりません。両備型の労使強存共栄思想が、労使の繁栄の礎になっていると、井笠鉄道の破綻で、反面教師として再評価されています。
以前、タクシー業界でも、両備は厳しいからと言っていた同業者では社員のお給料がこの10数年で最低賃金レベルまで落ち込み、破綻していきました。当たり前のことを厳しいと感じる労使が倒れていく時代なのです。
両備グループでは、昨年起きた他社の高速ツアーバスの重大事故を受けて、安全への指標として、両備グループ安全宣言に加え、両備交通三悪を制定し、これまでのSAFTY-OK運動をさらに強化したSAFTY-OK+IB運動の展開を示しました。飲酒運転、運転中の携帯電話使用、免許証不携帯での運転の両備交通三悪を根絶すること、S(スピード出しません)A(安全車間保ちます)F(踏切止まります)T(追突しません)Y(よそ見しません)O(追い越し注意します)K(交差点内徐行します)I(居眠りしません)B(バック自損しません)を遵守すること。これらが守れないとき、当然会社としては当人を罰することもあるでしょう。これが厳しいことですか? 運輸交通業に従事する者は、安全を守ることが、お客様を守るだけでなく、自分も守ることになるということを心から理解し、誓わなければならないのは当然のことです。
今年度、交通運輸グループは、安全管理に「ヒヤリ、ハット」を、全社的に取り組んでください。
自分への厳しさが、実は、自分の生活を豊かにし、また一生幸せに過ごせる基礎となるということを反面教師から学んで、ますます両備型に自信をつけました。
皆さんが、健康で、生き甲斐のある仕事に取り組んで、自ら幸せな人生を掴んでもらえるように、これからも両備グループは頑張ります!