夢二郷土美術館 館長
小嶋光信
知る人ぞ知ることですが、端午の節句前後の夢二生家の前庭では、鯉のぼりが泳いでいます。
鯉のぼりは、夢二生誕120年で夢二の故郷をテーマとした記念展を開催したこともきっかけとなって、日本古来の伝統文化を見直し、また、夢二が少年時代を過ごし、没する直前まで懐かしんだ「故郷」らしさを後世へ伝えていこうと、2006年から夢二生家で節句をテーマとした企画展をスタートしました。
今では付近の5月の節句を祝う風物詩にもなっており、近所の皆さんも夢二生家に鯉のぼりが揚がると、お節句が近いことを感じて下さっているようです。
当初は館員のご家庭などで使って要らなくなった鯉のぼりを皆で持ち寄っての催事でしたので、鯉も大きいもの、小さいもの様々でした。ところが、7年目を迎えた今年、ついにその鯉のぼりがボロボロになってしまい、そこで館員が「徳永こいのぼり」さんへ中古の鯉のぼりがないかご相談したところ、翌日には鯉のぼりが届いたそうです。
それも届いたのが新品の鯉のぼりだったと聞いて、スタッフの厚かましさにびっくりするやら感心するやら、また気前よくご寄贈下さった徳永こいのぼりさんへも申し訳ないやら等々で、是非ともお礼の気持ちを表したいと、夢二生家 春の催し「端午の節句」の開催日である4月14日に鯉のぼりの贈呈式をすることにしました。
徳永こいのぼりさんは日本の鯉のぼりの3割、コンビニなどで売っているミニ鯉のぼりの9割以上を製造されているという、岡山県和気町にある郷土を代表する鯉のぼり屋さんです。鯉のぼりの由来は、江戸時代に武家に男子が生まれた時に家紋入りの武者絵幟などを飾った風習から、町家でも男子が生まれたお祝いと子どもの健康や出世を願って、江戸時代中期頃に裕福な庶民の家庭で始まった習慣のようです。
贈呈式当日は、素晴らしい好天に恵まれて、近所の子ども達や、親御さんたちもお招きして、徳永こいのぼりの永宗黄二社長と子ども達で鯉のぼりを掲揚して、皆で童謡「こいのぼり」を歌って楽しみました。
大正2年6月に発刊された「日本少年 第8巻第7号」に夢二が詠んだ詩歌があります。
「When I was your age」というシリーズの中の一篇で、「端午の節句」の武者絵幟や鯉のぼりの情景ですので、参考にご覧下さい。
紺の被布(はっぴ)のつばくらが 丁と入れたる木の頭(かしら)。
櫻の花も散りぬれば 野はさみどりの幕たれて 夏は五月に入りにけり。
朝空高く旗幟 東の家の門邊には 加藤清正突立てり
西の家には武蔵坊 鍾馗、義経、巴御前
我等を生みし日本の 英雄豪傑雲のごと 鎧の袖をはたはたと
打鳴らしつつ控へけり。
我等も日本男児なり 菖蒲の烏帽子うち冠り 菖蒲の刀落しざし
鹿毛の小馬にまたがりて いざ八幡へ詣でなむ。― 夢二 ―