Message代表メッセージ

2013.04.03

一般財団法人 地域公共交通総合研究所 設立趣意書

地域公共交通総合研究所 理事長
小嶋光信

  

2001年、2002年の規制緩和以来、全国の地域公共交通を担っている路線バスや鉄軌道会社の70%以上が赤字経営に陥り、離島や生活航路を担う旅客船事業者の多くは船を造る企業力を失い、地域路線バス企業はバリアフリー適合車輌の新規導入はおろか存続の危機で、年々地域公共交通の路線が減少し、衰退している。

だが、苦境に立つ地域公共交通の、本当の病巣は何かを知る人は少ない。
先進諸国で地域公共交通を民間に任せ切ってしまった国は日本だけという現実を知らずして、本当の地域公共交通の再生はできないだろう。
和歌山電鐵や中国バスの再生と、路線廃止表明後わずか19日でその幕を閉じた井笠鉄道のバス路線の再建や、その公設民営のモデルとなった津エアポートラインなどの具体的な再建経験をもとにして、どうすれば地域公共交通を地域づくりの観点から真の意味で救うことができるのか、現場サイドでの再生を通じて実証してきた。

私が携わった交通運輸事業の再生は、旅客船事業2社、新設1社、鉄道事業1社、バス事業2社、タクシー事業5社と物流事業5社と多岐にわたり、規制緩和後の交通運輸事業衰亡の実情に立ち向かい、再生してきた現場から、多くの規制緩和の功罪を体験してきた。

公共交通・運輸業の現場に立脚した政策や、コンサルティング、学術論が極めて少ない業界のため、多くの再生経験から、規制緩和後の公共交通の問題点を多々抱える行政や企業や市民団体から相談や助言と講演の依頼を受けることが極めて多くなった。

地域公共交通の問題解決には、経営を熟知した上で、公共交通の根本問題や技術的な実務と行政や市民などの地域との関わりから、一件、一件毎の対処法が異なるため、実際に再生をしていかなければ分からないといえる。

昨今、地方の疲弊が激しいが、豊かな日本創造のためには地方のしっかりした基盤が必要といえ、その地域で安全安心に暮らすためには地域公共交通の存在は欠かせない。危機に瀕している公共交通事業とは裏腹に、今後の高齢化の進展や、環境問題、マイカー主体の日常生活での運動不足からくる健康問題の解決等々に、地域公共交通の存在はますます重要になるといえる。

元気なまちづくりの一環として、それを支える地域の公共交通を救う一助となることを目的に、この問題に造詣の深い研究者や実務者とともにこの総研を設立する

2013年4月4日

事業の内容

  1. 地域公共交通の経営分析と企業評価の実施
  2. 地域公共交通の路線分析と対策の立案
  3. 地域公共交通の経営改善策の立案
  4. 地域公共交通の破綻に伴う再建案の立案
  5. 行政と共同で地域公共交通の分析、研究や再建指導の実施
  6. 地域公共交通の政策課題の研究、分析と提言の立案
  7. 地域公共交通をテーマにした講演
  8. 公共交通の活性化へのイベントや事業の具体案の作成と社員教育と実地指導
  9. 安全・サービス教育指導
  10. その他地域公共交通の各種相談


組 織

理事会

理事長 小嶋 光信(両備グループ代表・CEO)
理 事  家田 仁(東京大学大学院工学研究科 社会基盤専攻 教授)
理 事  三村 聡(岡山大学地域総合研究センター 副センター長・教授)
理 事  原 雅之(両備ホールディングス(株)専務取締役)
専務理事  町田 敏章(常勤事務局担当:両備ホールディングス(株)経営戦略本部部長、慶応義塾大学SFC研究所所員)

評議委員会

評議委員長 千葉 喬三(就実学園 理事長)
評議委員  松田 久(両備ホールディングス(株)代表取締役社長・CEOO)
評議委員 松田 敏之(両備ホールディングス(株)専務取締役)

監 事

監 事   藤原 敏顕(両備ホールディングス(株)執行役員財務本部長)

アドバイザリー・ボード

委 員  土井 勉(京都大学大学院 工学研究科 特定教授)
委 員  加藤 博和(名古屋大学大学院 環境学研究科 准教授)
委 員  丸尾 聰((株)日本総合研究所 オフィサー 主席研究員)
委 員  吉田 淳一((株)日本政策投資銀行 岡山事務所長)

研究員

研究員   小坂 貞昭(両備ホールディングス(株)執行役員常務両備フェリーカンパニー長)
研究員 水田 満(両備ホールディングス(株)経営戦略本部 企画開発部長)
研究員 礒野 省吾(岡山電気軌道(株)代表取締役専務、和歌山電鐵(株)代表取締役専務)
研究員 田中 秀明((株)中国バス 専務取締役)


公共交通代表的再建例

1.津エアポートライン(株)を公設民営方式にて新設

津市からの依頼で、中部国際空港の海上アクセスの分析をボランティアで実施し、コンサルタントが示した需要予想が過大であることを掴み、三重県が示した5航路のうち津市からの航路のみが公設民営方式でならば出来ることを提案。コンペへの参加が海運経験のない事業者だけで問題ありと言うことで、起案者である両備グループも参加の依頼を受け、結果選ばれた。

平成16(2,004)年1月21日、旧両備運輸(株)が設立した新会社「津エアポートライン(株)」(三重県津市)が中部国際空港と津市を結ぶ海上アクセス航路を就航(同年2月27日)し、公設民営を実証

2.和歌山電鐵貴志川線による再建

南海電鉄が貴志川線の廃止を表明したことで地元の利用者を中心に貴志川線の未来をつくる会が結成され、両備グループの岡山電気軌道にどうやったら再生できるかの相談があり、津エアポートラインの開設方法である、

  1. 公設民営とする。
  2. 運行は第三セクターでなく経営責任が明確になる単独出資とする。
  3. 利用者中心の運営委員会を会社内に作り、運営の司令塔とする。

の再建案を作提案。この方法しかないという行政の判断で、運行業者の公募に入るが、やはり鉄軌道会社の応募が無く、口説かれて岡山電気軌道もコンペに参加。

南海電気鉄道が廃止申請をしている貴志川線の後継事業者として岡山電気軌道が選定され(平成17(2,005)年4月28日)、100%出資により設立した新会社「和歌山電鐵(株)」(和歌山県和歌山市/同年6月27日)により、和歌山電鐵貴志川線が開業(平成18(2006)年4月1日)。
公有民営による再生を実証中

3.中国バスの再建

中国バス社長が銀行の紹介で来社、3ヵ月後には資金繰りが回らなくなるが、広島県サイドには経営再建をしてくれる企業が無いと、隣県岡山の両備グループを訪問。

切羽詰まった状態を感じ、中国バス社長からの「何の要望もない。ただ社員と路線を守って欲しい」の一言に感銘し、再建を引き受ける。
平成18(2006)年12月22日整理回収機構による私的再生手続きを行なって、中国バス(株)(広島県福山市)の全事業を、両備バス(株)100%出資の新会社(株)中国バス(広島県福山市/平成18年10月16日設立)が引き受け、新生中国バスによる運行を開始。
補助金制度の経営モラルハザードと労使関係の先鋭化という副作用を実証。

4.井笠鉄道のバス路線の再建

井笠鉄道の経営が年末頃までしかもたないという相談を井笠鉄道社長から受ける。今までの再建は再生法や自主整理で破綻後から十分の期間がある予定であったが、弁護士の分析で再建は無理と判断され、突如10月12日に当月中に路線バス事業廃止を発表された。引き継ぎまでたった19日しかない中、井笠鉄道社長や関係の国県市町より緊急の代替運行を両備グループの中国バスに依頼される。全路線が赤字で、収支率は50%という経費の半分しか無い経営状態で通常の再建は無理と分析し、公設民託による行政側が主体になった再建案を提示した。井笠鉄道バス路線廃止対策会議の三島会長(笠岡市長)から公設民託による案を軸に再建の依頼と、当面の緊急代替運行を依頼される。

平成24(2012)年11月1日、(株)中国バス(広島県福山市)が社内に井笠バスカンパニーを組織し、38系統について緊急代替輸送開始

平成25(2013)年4月1日、(株)中国バスが緊急代替輸送をしていた岡山県井笠地区を中心とする、対策会議よりご依頼のあった23系統の路線バスを、同社が100%出資により設立した(株)井笠バスカンパニー(岡山県笠岡市/1月16日設立)による本格運行に移行、準公設民託による路線の運行にて再生開始。

この種の収支実態のバス事業は、現状の補助金制度では救済できないことから、抜本的な補助金制度の改善を提案中。

chikoken

地域公共交通総合研究所

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