交通労連:全国バス事業 第29回労使懇談会 挨拶

両備グループ
代表 小嶋光信

晴れの国 岡山にようこそ!心から歓迎申し上げるとともに、日頃の両備グループの労働組合との友好に感謝します。

今回の大会は岡山での開催ということで、両備バス労働組合の高木委員長がホスト役で、杜の街グレースオフィススクエアのコンベンションホールが会場となりました。

両備グループが今日あるのは、実は同盟系の交通労連のお蔭だと思っています。

両備グループは旧西大寺鐵道から生まれた企業であり、もとは総評系の労働組合の傘下で、昭和30年前後には全国の中でも強烈なストライキや労働運動が行われていた会社でした。しかし、賢明な組合員の皆さんがストライキばかりしていてはお客様にご不便をかけることになり会社が潰れ、我々も仕事がなくなるということで、組合大会で同盟系に変わる決議がわずか数票上回ったことで交通労連の傘下となり、以後、健全な労使関係に変わったことで今日の両備グループがあると感謝しています。

1990年代の終わり頃と思いますが、私は以前この交通労連の全国大会で「2000年、2002年の規制緩和前を迎え、規制緩和でバス事業や交通事業がどうなるか」という演題で講演を頼まれてお話しをする機会がありました。その時はまだ旧両備バスの社長ではなく旧両備運輸という物流と海運、タクシー事業を手掛ける会社の社長としてのお招きでした。

当時、私が今回の道路運送法関連の規制緩和はいわゆる「交通の競争政策」の導入で「利用者の利益」だけが尊重され、事業者は競争で敗れるなら潰れなさい、儲からない路線は止めなさいということで、バス、トラック、タクシー乗務員の給与はそれぞれ100万円以上下がると予言したら大騒ぎになって、「小嶋さんバスはそんなことにはならないよ」と異口同音に言われました。しかし、20数年前の私の予言は残念ながら的中してしまいました

そして、規制緩和によって全国の主だったバス会社など30数社が潰れ、伝統ある観光バス会社は散り散りばらばらになり、変わって零細の観光バスやタクシー会社が雨後の筍の如くできて、激しい運賃競争を繰り広げました。公共交通事業を一般の企業活動と勘違いして金儲けを念頭に進出した業者の中には安全そっちのけで大変な大事故を引き起こす結果となりました。

実は、世界の先進国で公共交通を民間に任せきった国は日本だけなのです。

そこで、和歌山電鐵、中国バス、井笠鉄道などの再建を通して「公設民営」というヨーロッパ型の制度の確立を提唱し、方々、運送法の外堀を埋めるために地域公共交通活性化再生法や交通政策基本法の成立に携わり、また両備バスの赤字路線を維持していた数少ない黒字路線への新規会社の参入…いわゆる「良いとこどり進出」に対して、その路線の黒字で支えていた「31路線の赤字路線の廃止届」を出して国に諫言しました。

その際、実は高木委員長率いる両備バス労働組合も職場を守るということで、世界でも稀なる「無改札スト(運賃無料スト)」を実行し、世間へ問題提起をしてくれたのです。同盟系の組合としてお客様にご迷惑をかけないようにストはするが、運行は無料ということで、沿線のお客様たちは大喜びで、お客様の中のあるおばあちゃまは「こんなストなら毎日やってネ!」と茶目っ気たっぷりに言われ、市民の皆さんや全国の識者がこぞって両備グループを応援してくれました。また、世界でも「紳士のスト」とアメリカやフランスで大いにもてはやされました。お蔭様で国は「競争から協調へ」と舵を切ってくれて、現在、制度変更が行われていますが、そこにこのコロナ禍で全国のバス事業者は瀕死の状況です。

おまけに、この20数年で賃金がほとんど上がらなかったバス業界はじめ運輸業界は、私の予言通り低賃金化し、乗務員不足という大難問にぶつかっています。

私は、現状の公共交通の改革には、①法改正、②財源確保、③公共交通利用促進の国民運動の3点セットを提唱し、活動しています。
法改正では、地域公共交通活性化再生法や交通政策基本法の上位法である道路運送法に「利用者の利益」を支える「健全な事業者の確保・維持継続」を加えるように提唱し、賛同者が増えています。

財源では、公共交通関連の議員連盟の提言等を受け、岸田内閣の昨年の「骨太の方針2022」に「地域公共交通ネットワークの再構築」と「従来とは異なる実効性ある支援」が盛り込まれて、国交省の社会資本整備やまちづくりと紐づけが行われてきているので、現状は地方鉄道がメインになっていますが、いずれ公共交通全体に財源が広がっていくと思います。

問題は公共交通の利用促進で、日本での通勤通学における公共交通の分担率は10%程度しかなく、あまり利用されていませんが、欧米では20~30%の利用率で、更にカーボンニュートラルや市民の健康というクオリティ・オブ・ライフ(生命や生活の質)=QOLを高めるためにマイカーから公共交通への転換が積極的に図られています

ロンドンやニューヨークでも渋滞税が取り入れられ、ニューヨークでは23ドルという渋滞税の課税によって2割近く渋滞が減り、その税収で老朽化した交通インフラの整備をするようです。日本はまだまだマイカー中心の政策で、世界の先進国の公共交通への取り組みと比較すると2~3周回遅れかもしれません。

しかし、このコロナ禍が「災い転じて福となす」ラストチャンスで、ここで更に公共交通の改革を国に提言し、それが理解されてきているので、是非みんなでバス事業だけでなく交通産業の発展のために労使“強存強栄”で「夢のある交通事業」となるように頑張りたいと思います。

両備グループ