生誕135年「竹久夢二展」いよいよ開幕!
―幻想の美 秘められた謎―

夢二郷土美術館
館長 小嶋光信

今年、令和元年9月16日に竹久夢二は生誕135年を迎えます。

今回の記念展覧会のテーマは「幻想の美 秘められた謎」で、今日がその展覧会のキックオフです。展覧会の第一弾をふるさと岡山の夢二郷土美術館で開催し、来年3月から京都、横浜、大阪、東京の髙島屋を会場に巡回展が開催されます。

今回は「秘められた謎」という、とても謎めいた題になっていますが、実は当館の初代館長の松田基さんの孫娘であり、私の娘の小嶋ひろみが学芸員として美術館に戻ってきた後、本当に謎解きのような不思議なことが次々と起こり始めました。

まず、その第一が生誕130年を機に小嶋ひろみ館長代理が開設した美術館のフェイスブックへ何と夢二の渡米中に親交があった宮武東洋さんのお孫さん・アラン宮武さんから幻の油彩画とまで言われた《西海岸の裸婦》についてのご連絡があったことです。

また、この生誕130年記念の展覧会を監修してくださった岡部昌幸先生のご提案で「竹久夢二学会」が誕生し、高階秀爾先生に会長としてご就任いただいて、今までなかなか出来なかった学術的な夢二研究が可能となり、この5年で多くの謎が明らかになってきました。

また3年前の夢二生誕日を迎える9月初めに、美術館近くの交差点で轢かれそうになっていた黒猫の子猫を館員が保護をして、その後美術館の中庭を気に入って住みついたので「お庭番黑の助」と命名して館員の一員に加えました。不思議なことに赤いリボンをつけた夢二の描いた黒猫にそっくりで、今や美術館の人気者です。

今回は、次の140周年まで待てないほど沢山の謎解きで、夢二の「幻想の美」をご覧いただけるので、135周年として大きく取り組むことにしました。

これまで、夢二式美人で有名な竹久夢二がこよなく愛し「ミス 日本だ」と語ったという《立田姫》が彼の最高傑作だと思っていましたが、本当に不思議なご縁で夢二滞米中の幻の名画と言われていた《西海岸の裸婦》が米国からの里帰りを果たすことができ、全く新しい夢二式美人に触れることができました。

《立田姫》が「ミス日本」なら、さながら《西海岸の裸婦》は「ミスアメリカ」ともいえる夢二のヴィーナスです。

その晩年に渡米して、西海岸で白人のモデルの裸婦像に挑戦した夢二は、白人女性の肌の色を出すために「日本男児であることを恥じる」とまで言って悪戦苦闘しながらも、不慣れな土地で精一杯挑戦し、西洋式の裸婦像で遂に、得も言われぬ、透き通るような肌の色を手に入れました。夢二が苦心して生み出した色には温もりさえ感じます。

当館所蔵後この作品の科学的調査で次々と明らかになった夢二の新しい挑戦だけでなく、竹久夢二学会などの研究を通じて改めて夢二の魅力が再発見されています。師を持たず自ら作り出してきた夢二芸術は、これらの研究を通じて今日、さらに素晴らしい評価を得るようになりました。

「庶民の暮らしに芸術を」と多彩に繰り広げられた夢二芸術を語る時、夢二が幼少期を過ごした故郷岡山を忘れることはできません。「泣きたいくらいなつかしい」と終生思い続けた岡山のことは、亡くなる直前まで夢二の心から離れることはありませんでした。夢二芸術の根底には幼少期を過ごした豊かで楽しかった岡山県邑久郡の千町平野での暮らし、お祭りや農村歌舞伎から受けた日本の伝統芸能からの影響、働き者で優しかったお母さんや可愛がってくれた松香お姉さんなどを伏線として形作られているといっても過言ではありません。

この郷土で夢二芸術を伝えていこうと初代館長の故松田基が蒐集した約3千点を収蔵している夢二郷土美術館本館は創設50年を記念してリニューアルし、今回の生誕 135 年を記念して新たなコンセプトで蘇った邑久町にある夢二生家記念館と少年山荘とあわせて生い立ちから絶頂期までの夢二の生涯を通じて夢二芸術を体感していただけるでしょう。

ぜひ、この展覧会とともに夢二の故郷にある夢二郷土美術館本館と夢二生家記念館・少年山荘をあわせてご覧いただければ幸いです。

はじめ詩人を目指し、心の詩を描くようになった夢二は、「宵待草」に代表される詩人として、また画家として夢二式美人にとどまらず、今日の日本におけるグラフィックデザイナーの草分けでもあり、本の表紙や装幀、千代紙や絵葉書、帯や半襟などの工芸品にも挑戦し、大正ロマンの旗手としてまさに私は「マルチアーティスト」とも評せる世界でも珍しく多彩な芸術家だと思っています。

個人の名を冠した学会は珍しいのですが、詩人としても画家としてもデザイナーとしても、それぞれの分野で世に残る作品を生み出した夢二芸術は、詩や絵などの縦社会の研究では到底収まらないのです。この幅の広いアーティストの研究には多彩な研究者のご協力が不可欠で、それらが融合した研究から夢二の新たな魅力が生まれてくるでしょう。

今回は、夢二の未知なる美の発見を求めて高階秀爾先生のご指導と監修のもとに、竹久夢二学会の協力も得て当館の主任学芸員でもある小嶋ひろみ館長代理が手がけた生誕 135 年竹久夢二展を、「幻想の美 秘められた謎」を副題として、従来の夢二展とは異なる視点から夢二の美の謎を皆さまにご鑑賞いただけるよう工夫しています。

夢二郷土美術館の代表作品約 150 点に、秘蔵の《西海岸の裸婦》とロスアンゼルスの全米日系人博物館から特別に出品された本邦初、世界初公開(夢二郷土美術館調べ)の《花衣》というアメリカで夢二が描いた貴重な油彩画2点が初顔合わせをし、第一章「樹下美人から海辺の裸婦へ」、第二章「遥かな国 夢の世界」、第三章「人生劇場の情念のドラマ」、第四章「新感覚と奇想のデザイン」の四章立てで夢二の美の謎に迫ります。

「夢二はいつの時代にも新しい!」…その絵に詩にデザインに、なんとも言えぬ憂いと「カワイイ」を秘めたときめきを感じ、心に訴えかけるような美をお楽しみください。

夢二郷土美術館