問題提起としての廃止届提出後の対応と緊急提言

両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信

今後の地域公共交通に大きな問題を投げかける、弊社路線と競合する路線への国の認可への「抗議」と「問題提起」として、弊社の不採算路線の廃止届を2月7日、8日に提出し、その旨を記者会見で発表させていただきましたが、ご不安やご心配をおかけしたことを先ずもってお詫び申し上げます。

全国の地域公共交通を守るために、このような赤字路線を支える一部の黒字路線だけを狙った、実際には赤字と思われる低運賃の路線が認可されるならば、全国各地で多くの交通網の維持が困難になる過当競争が始まる懸念があります。

その問題提起と抗議として、黒字路線で支えていた赤字路線の廃止届を出して、果たして地域や国民の皆さまに正しく理解していただけるか心配していましたが、心配に反して両備グループのHPには全国各地から「良く言った」、「頑張れ」、「そんなに民間企業が苦しんで路線維持してくれていたとは知らなかった」、「国はこんなものを認可して、国民の足を破壊するのか?」等々の心温まるお声をいただいた他、HPの私の「代表メッセージ」には6,800を超える「いいね!」をいただき、その他にも実に多くの激励のメールや手紙をいただきました。本当に感謝に堪えません。

むろん、今回の廃止届については、厳しいご意見も一部いただいています。私どもとしましては、いただいた賛否全てのご意見に対して、真摯に向き合い、より地域の皆さまに愛され、必要とされる公共交通事業者となるべく、両備グループ一丸となって今後も努力して参ります。

地域の皆さまに、少子高齢化で利用者が減っていく現状の中、今の地域公共交通がしっかりと維持されるのかという不安とご意見があることも十分受け止め、全国的な問題として提起したことは正しく受け止めていただき、一定の成果があったと思います。

今回の、事件ともいえる競合路線への認可は、8割以上が赤字でありながら路線維持を必死に行っている地域交通事業者の怒りを誘い、日本バス協会や国に認可反対の要望書が提出されるなど、新たな展開が生まれています。

Ⅰ.問題提起としての廃止届提出後の対応


今回は黒字路線を狙い撃ちにした申請が如何に公共交通の健全な発達を阻害するかの「抗議」と「問題提起」をしました。今までの交通事業者任せの孤軍奮闘型の地域公共交通から、地域公共交通活性化・再生法や交通政策基本法の制定で、国や自治体の責務や、市民と交通事業者の努力で支えていく公共交通のあり方が変わっていますが、その浸透がないので、今回は市民と地域社会全体の問題として考えていただきたかったのです。お蔭様で、市民の皆さまに地域公共交通の置かれた危機的な現状をよくご理解いただける一助となったと思います。

該当地域の皆さまには、ご不安やご心配をおかけしていますが、今回、この認可を看過すれば、数年後には下手をすれば地域公共交通網はもっと酷い状況になることは火を見るより明らかで、しばらくの間、痛みをこらえていただき、必ずサステナブルな公共交通を創りますのでお時間をください。

今後の展開を語る時、廃止届の5日後に石井国交大臣が会見室で新聞記者からの質問に答えた文章が、もっとも今後の対応に大事な事柄なのでまず該当部分をご覧ください。

【国交省 石井大臣 会見要旨(本件該当部分)】

2018年2月13日(火) 9:12 ~ 9:17
国土交通省会見室
石井啓一 大臣

(問)岡山県の両備グループが、数少ない黒字路線に格安業者が参入して国が認可する見通しになったことに抗議して、赤字路線を一斉廃止すると発表されましたが、事実関係と大臣の受け止め、国土交通省の今後の対応について、お願いします。

(答)両備バス及び岡電バスにより、路線廃止の届出が提出されたことは承知しています。
今回の路線廃止の届出は、事業者の経営判断に基づき行われたものと承知をしております。
今回の届出を受けまして、それらの路線のあり方について、今後、地元自治体をはじめ地域の関係者による協議が行われるものと考えられます。
国土交通省としては、その協議に参画し、全国の事例を通じた助言や各種支援策の活用など、積極的に協力してまいりたいと考えております。

(問)両備グループの小嶋代表は、2002年の道路運送法改正によって需給調整が廃止された結果、今回の問題が起きていて、制度を見直さない限りどこの地方でも同様の問題が起きると発言されていますが、制度の見直しに関して大臣の所見をお願いいたします。

(答) 2002年の道路運送法改正により、乗合バス事業の需給調整が廃止されました。
これは、安全の確保を前提として、事業者間の競争を促し、事業者の創意工夫を生かしたサービスの提供や事業の効率化、活性化を図ることにより、利用者の利便を向上させることを目的としております。
小嶋代表の御発言は、現行制度において、地方では競争と路線の維持を両立させることは難しいという御指摘だと理解をしております。
わが国において、人口減少や高齢化が進む中、これは岡山に限らず、地域において必要な公共交通の維持を図っていくことは重要な課題であります。
国土交通省としては、岡山をはじめ、各地域におけるバス事業の状況もしっかりと把握、検証しつつ、地域公共交通活性化・再生法を活用した地域における公共交通維持への取組を支援することをはじめといたしまして、地域公共交通政策をしっかりと進めてまいりたいと考えております。

出典:国土交通省ホームページ(http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin180213.html)

そして、2月22日衆議院予算委員会の質疑に、安倍首相がこの石井国交大臣の発言を引用されたことでオーソライズされたと思います。

石井国交大臣は、この回答で3つの大事なことを言われています。

  1. 今後、地元自治体をはじめ地域の関係者による協議が行われるものと考えられます。国土交通省としては、その協議に参画し、全国の事例を通じた助言や各種支援策の活用など、積極的に協力してまいりたい。
  2. 小嶋代表の御発言は、現行制度において、地方では競争と路線の維持を両立させることは難しいという御指摘だと理解
  3. わが国において、人口減少や高齢化が進む中、これは岡山に限らず、地域において必要な公共交通の維持を図っていくことは重要な課題であります。国土交通省としては、岡山をはじめ、各地域におけるバス事業の状況もしっかりと把握、検証しつつ、地域公共交通活性化・再生法を活用した地域における公共交通維持への取組を支援することをはじめといたしまして、地域公共交通政策をしっかりと進めてまいりたい。

私の廃止届での「抗議」と全国の地域公共交通への「問題提起」は、石井国交大臣によってしっかり受け止めていただき、安倍首相の答弁で方針が明らかになり、地域公共交通の今後についてまさに的確な回答をいただき、一定の成果があったと感謝しています。今後、私の問題提起が国交省の地域公共交通の政策として反映されるものと期待しています。

従って、私がその認可への抗議と全国の地域公共交通のためにした問題提起も真意をご理解いただいて、国が本気で地域公共交通政策を進めて行く方針と理解し、廃止届後の対応を4点に絞ってご説明します。

1.今後、国や岡山県、関係4市との協議で廃止問題を全面解決できるよう努力します。

今まで5年以上、地域協議会の開催を岡山市や岡山県に求めていましたが、やっと実現への道が出来てきました。

今回の発言に端を発して国や岡山県と関連市の市長さんの努力もあり、協議がやっと開催されることになり、石井国交大臣はじめ、関係の皆さま方のご努力とご協力に感謝します。

市民の皆さんは、この廃止届で自分たちの利用する路線はどうなるのかとご心配されているかと思いますので、ご心配の無いように今後は早急にこれらの協議をもって、国と自治体とともに届出した全ての路線が維持できるように最大限の努力をします。なお、 ご利用者の混乱を避けるため通学定期については、一年定期がご購入いただけるよう廃止届時期を3月末に統一するよう​調整しますので、安心してご利用ください。

2.認可反対運動は、今後も断固進めます。

この認可そのものが元凶であり、この「認可の取り消し」あるいは、「再審査」に向けてあらゆる努力を続けます。地域で何の協議もされないで認可された本件を認めるわけにはいきません。

① 情報の開示を請求中です。
「こんな酷い申請はみたことがない」と国交省幹部に言わしめた申請が、昨年7月までの中国運輸局 前局長時代には却下を前提に内示を受けていたものが、中国運輸局も本省も人事が変わり、何故、一転真逆な認可に至ったかの過程の情報開示を求めていますので、3月19日までには明らかになる予定です。この情報開示も皆さまに公開します。

② 行政不服審査法に基づく審査請求等を検討します。
情報開示で誠意ある情報が得られ、分析し、納得いくものでなければ、競合会社の「認可取り消し」や「再審査」を求める不服申立てをします。
審査の結果が理解できなければ、裁判を提訴します。

3.「市民に寄り添う公共交通の実現」に向けて努力します。

今回、地域に生まれた危機意識と、社員に生まれた使命感をバネに地域公共交通を正しく知って、交通政策基本法の理念に基づき市民も交通事業者も行政と相まって努力するという前向きな地域運動を展開します。

安全確保とともに、市民の要望や利用促進も含めた地域運動とサービスのレベルアップを、将来を担う若手社員が中心になり、地域と向き合い、地域の不安を払拭するための各種活動を展開し、災い転じて福となすように、地域の皆さまと連携を図り、公共交通を皆で維持し、生活交通を守るという一体感を醸成します。

「日本一の交通運輸企業を目指す」が両備グループの方針です。

4.地域公共交通の問題が超党派の国民運動になるように努力します。

2月16日に岡山市で開催された衆議院予算委員会の公聴会で、私がこの問題を意見陳述しました。その結果、衆議院や県議会や市議会で本件を国や地域の問題として取り上げて質問が行われています。与野党を超えた超党派の動きとなることを期待しています。

Ⅱ.何故、私がこの認可取り消しにこれだけ拘るか

ご多分に漏れず両備バスの路線バス事業も赤字(平成28年度経常損失121百万円)です。そして3~4割の黒字路線で6~7割の赤字路線を支えて、可能な限り自主自立で頑張っているのです。

その創業以来の黒字路線の西大寺線という美味しい路線だけを、3~5割も安い運賃で狙い撃ちし、そのために両備バスと岡電の並行路線の収入が半減すると見込まれ、それらの黒字で支えていた赤字路線の維持ができなくなるのです。そしてこの認可の弊害は全国の地域公共交通の一部黒字狙いに発展する懸念があるのです。

1.「競争自由の先祖返り」になるような前例を作ってはいけない。

何故、私がこの認可取り消しにこれだけ拘るかは、自社路線だけの問題ではないのです。

2002年の規制緩和以降、全国各地でその地域の大手事業者を含め33社が破綻し、地域公共交通を破壊する懸念があったからです。
現行の規制緩和後の法律は、一言で言って「競争自由で潰れる会社は潰れなさい、儲からない路線はやめなさい」というアメリカ的な激しい競争を前提にしています。

前述のように業界で8割の会社が赤字で儲かりもしない事業で、黒字会社もほとんどが赤字路線という地域公共交通に、少子高齢化の日本でこのような過当競争を持ち込んで、地域公共交通を滅亡させるような法律なのです。

もちろん、全て規制緩和が悪いというわけではありませんが、しかし、需要の少ない地域においてはタクシー業も観光バス事業も供給過剰の運賃競争で疲弊し、劣悪な現場管理で観光バスでは死者も出て、賃金の低下から人手不足の労務倒産型の事業になっています。

この規制緩和の弊害を緩和するために、私は後述のとおり問題意識を持ち、解決の努力をしてきました。しかし、せっかく「過当競争型」から「地域交通網型」に揺り戻してきたのに、今回のような申請が認可されると「競争自由の先祖返り」になって、今までの破綻会社の再生による実証や法制化の努力までが「無」になってしまうのです。

2.「小嶋さん、多くの地域の公共交通の再生で地域を救ってきて、何で今回は廃止届なの?」と多くの方が疑問を持たれるかもしれません。

私は、1999年、両備グループのトップになり、当面の課題は規制緩和であり、分析の結果、ちょうど2010年の100周年の時に両備グループの公共交通は毎年2%程度の顧客の減少で赤字転落となることを知りました。これをどう乗り切るかを研究し、世界の先進国で公共交通を民間に任せ切った国は日本だけであり、公共交通のガラパゴスになっていることを知りました。ヨーロッパ各国はアメリカの自動車中心の社会に対し交通弱者に配慮して、公設民営を主体に公共交通を維持していました。そのため、日本の公共交通を救うのはヨーロッパ型の公設民営以外にないと思い下記の活動をしました。

地域公共交通の健全な存続のために、補助金行政を補強する公設民営・民託を提唱し、公設民営を津エアポートラインで実証し、公共交通では和歌山電鐵で再生への道筋をつけました。

中国バスの再生に携わる中で痛感した規制緩和の弊害を薄めるために、地域公共交通活性化再生法の成立に全面協力しました。

さらに進めて、井笠鉄道の発表後わずか19日での営業廃止という、歴史上初めての酷い破綻を救済したことで、急遽、平成25年11月12日に衆議院国土交通委員会で参考人として陳述し、棚上げとなっていた交通政策基本法の成立を後押ししました。

交通政策基本法を受けて、地域公共交通活性化再生法が改正され、地域公共交通を交通網として計画し、地域のことは地域へという権限移譲の流れができました。

この流れに逆行する認可になり、全国の地域公共交通の悪しき例になるということで、昨年11月、このような地域での協議を全くしなかった、一部の黒字狙いの申請の認可をするとこれだけの廃止路線がでますよという「廃止届報告」を提出しました。だから協議をしてくださいとお願いしましたが、しかし、結果として認可の方向になったのでこの認可を看過すれば、全国で地域公共交通の黒字狙いの申請が出て、路線網の破壊が起こるので、止むを得ず警告として廃止届を認可の前に提出しました。そしてこの廃止届の事実を知った上で、認可したのです。

もちろん、この廃止届を出すことは私の過去の努力も「交通文化賞」の栄光も無になることを覚悟の上で、何としても全国の地域公共交通を救いたかったのです。残念ながら日本は「問題が起こらなければ動かない」のです。

ご当局は、個別の申請で判断すると言っていますが、今回のように地域の交通網を廃止せざるを得ないような事案は、道路運送法だけでなく、交通政策基本法や地域公共交通活性化再生法の改正などを総合して、道路運送事業の「健全な発達」に合致するか、法を守る以前に如何に国民が移動するための交通網を守るかの「行政判断」をすべき事案です。法文だけをチェックしても、時代を反映した法の解釈は出てこないのです。地域公共交通には、地域を守るという強い信念と志が必要です。

3.道路運送法第6条の基準の審査だけで、今回の認可は不当

本件は、法第15条が準用する第6条の基準だけを審査されたようですが、今回の案件は、そんな単純な事案ではなく、道路運送法第1条の趣旨及び関係法令の趣旨目的にまで照らして判断すべき事案です。かかる事案について道路運送法の認可基準のみに照らして判断されるのは、公共交通事業者としては納得しかねます。

全国では、法定協議会のみならず、自主的なものも含めてこのような既存路線で競合する路線や循環線は地域で協議し、地域のコンセンサスと交通事業者の理解を得て行われているのです。

しかし、岡山県には旧来の道路運送法で国に届けた「岡山県生活交通対策地域協議会交通会議」はありますが、これは、交通政策基本法や交通政策基本法及び地域公共交通活性化・再生法に基づく法定協議会ではありません。その上、岡山市には道路運送法に基づく地域公共交通会議や地域公共交通活性化再生法に基づく協議会がないという全国でも異常な状態です。

岡山での今回の事例のように、協議組織を長年作らず、地域のコンセンサスを何も得ていない申請でも、形式があってさえいれば国が認可するという事例を作ってしまうことは大変危険です。従って、何度も何度も国と岡山市に本件の協議をお願いしましたが果たされませんでした。

道路運送法第30条第2項の「一般旅客自動車運送事業者は、一般旅客自動車運送事業の健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争をしてはならない。」を大前提に、本件が法第9条第6項第3号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。」に抵触する運賃であることを鑑みると、第1条「この法律は、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)と相まつて、道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、道路運送の利用者の利益を保護するとともに、道路運送の総合的な発達を図り」により「総合的に行政判断」すれば、今回の認可は異常かつ不当と常識的にも分かるでしょう。

4.今回の認可は不公正な競争状況を看過している。

2月8日の緊急発表で、また、両備グループのHPで事情をご説明しました。しかしながら、例え需要が少ない赤字路線であっても、当該赤字路線をご利用くださっているお客様にとっては、日常生活の足として欠かせないものです。採算が厳しいローカル路線は高齢者の貴重な足なのです。そのような赤字路線には参入せず黒字路線のみを運行する事業者が、黒字路線の収益性を頼みに低廉な運賃で参入することが認められれば、既存の赤字路線も抱える交通事業者は、到底対等かつ公正といえる競争はできません。

ご当局は、かかる状況を知りながらこの進出を認めたのです。私は、地方公共交通事業に携わる者として、ご当局が地域公共交通を破壊させかねない前例を作ろうとされた認可の根拠と理由が知りたいと思います。赤字であろうとも生活路線は守らなくてはならないのです。

5.今回の国交省の競合会社への路線申請の認可は、国の方向性でもあるコンパクト+ネットワークにも背くことになります。

地方公共交通では数少ない黒字路線で多くの赤字路線を支えている現状の中、拠点都市から出ている路線の中心部や人口が多く、利用客が多いところだけを狙い撃ちにして破格な低廉運賃で運行するという事業者に進出を許せば、路線網は維持できず、人口が少なく利用者の少ない地域での公共交通のネットワークは維持できないことになります。

少子高齢化時代の日本の地域(地方)のあるべき姿は、コンパクト+ネットワークであるにもかかわらず、今回のようなことを認めれば、国策である地域の交通網のネットワークを築けないことになる懸念があります。

6.このような申請で廃止路線が出ることを知り、何故、当日の夜、緊急性のない本件申請を慌てて本省は認可したのか?

では、何故、かかる国の方向性にも背くようなことになったのかを考えると、今回は前述の如く道路運送法第6条によって形式的な認可基準で判断し、認可されたためだと推察されます。

弊社は競合路線の申請があった後に、事の重要性を国に対して何度も指摘してまいりました。昨年11月に、運賃だけの改善で認可されそうだということを知り、もし申請通り認可され、運賃を追随すれば2社で2億8千万円の減収、赤字の増大になるだけでなく、全国の地域の交通網に悪しき前例になるため、認可の理由の開示を求めるとともに、このまま認可になれば、今まで黒字路線でどうにか支えていた赤字路線を廃止せざるを得なくなる旨の「赤字路線廃止届提出方針のご報告」を国土交通大臣と自動車局長に提出しました。それに対して「地方局事案から本省事案としてあらゆる点から総合的に再チェックする」という返答がありました。

一方、両備グループとして、申請が認可されれば問題提起としての廃止届を提出せざるを得ないことを関連自治体などに説明したところ、事態を重く見た瀬戸内市、玉野市、倉敷市の廃止路線関連の3市は直ちに競合会社の認可反対の要望を国交省と岡山県に出してくださいました。各町内会長さんも同様に認可反対の陳情を国交省に出してくださいました。しかし、これらの重要な地域の声が反映されることはありませんでした

本件申請は、明らかに道路運送法第9条と第30条第2項の「健全な発達を阻害する競争」を惹起するもので、法第1条も踏まえて「総合的」に行政判断されれば却下が妥当だと思います。

7.今回の廃止届提出の真意について

上記のとおり、今回の廃止届の提出及び後述の提言で私どもが真に訴えたいこと、お伝えしたいことは、何よりもまず、地域公共交通を持続的に維持していくことの重要性・必要性です。

私どもは、地域公共交通事業者として、地域の皆さまの足を守ることを使命としております。移動の自由は国民の基本的人権の一つとして、極めて重要なものです。私どもは、そのような重要な仕事をさせていただいていることに誇りをもって、日々の運行を行っております。今回の廃止届の提出も将来に向かって地域公共交通全体を維持していくための苦渋の選択でした。私どもは、今回廃止届を提出させていただいた31路線についても可能な限り維持したいと考えております。しかしながら、既に皆さまがご存知のとおりの黒字路線を狙い撃ちにした路線進出がなされれば、一事業者の努力だけでこれらの路線を維持することは極めて困難です。

他方で、この問題は赤字路線を補助金で補填すれば解決するという単純な問題ではありません。そもそも、今回の競合事業者の黒字路線狙い撃ち的な参入がなければ、私どもの自助努力で何とか路線を維持できていたのです。私どもは、そのように交通事業者が本来必要とされる自助努力を行えば、維持できる路線に対して、税金を投入することは決して好ましいことではないと考えております。交通事業者の自助努力ではいかんともしがたい部分にこそ効率的に税金を投入すべきだと考えております。皆さまの貴重な税金は、そういった事業・路線にこそ使われるべきです。

そのためには、各交通事業者が健全な競争を行い、その上でそれぞれ自助努力を行うことによりきちんと路線を維持することができる仕組みの構築が必要です。

これは一公共交通事業者の努力だけでなしえることではありません。国、地方自治体、交通事業者、市民の皆さまなど公共交通に関わる全ての方々が一丸となって知恵を出し合い、何が真に地域公共交通にとって利益となるのか、それを達成するにはどのような仕組みが必要なのかを考え、行動していく必要があります。

今回の廃止届の提出を契機として、国や自治体が公共交通に関する協議会への参加や開催を表明し、地域公共交通維持のために動き出していただいたことには感謝しております。今後、この動きをさらに盛り上げ、地域公共交通維持の仕組みづくりのために、私どもは次のとおり、対応を進め、また提言させていただきます。

地域公共交通網維持に向けた緊急提言

両備グループ 代表兼CEO
(一財)地域公共交通総合研究所 理事長 小嶋光信

私は40数年間交通事業に携わり、20年来、規制緩和の弊害に向き合い、数々の地域公共交通を再生し実証しながら、規制緩和の弊害を補完する地域公共交通活性化再生法や交通政策基本法の成立に尽力してきました。その実態を知り、身体を張って解決してきた実務家としての経験を地域公共交通の維持・発展のために活かすべく設立した産学連携のシンクタンク(一財)地域公共交通総合研究所の理事長として、今回の問題をテコにして地域公共交通の正常化のために、敢えて緊急提言を致します。

1.道路運送法を早急に改正する必要があります。

1980年代のイギリスの地域公共交通の競争政策の大失敗を教訓として、早く改正しないと、日本の将来の交通政策が危うくなると言えます。タクシーや観光バスなどの大問題が起こる度にパッチワークで直そうとしても、この法律の全体が「競争自由」という組立で整合性が取れないのです。少なくとも日本のような少子高齢化の国には危うい法律と言えます。

旧来の道路運送法は、供給サイドである交通事業者に有利でしたが、一転、現在の法律は需要サイドの利用者に有利で、交通事業者へ配慮が少ない法律で、極端に変わりすぎています。今回の改正の提案主旨は、交通事業者の「健全性」が利用者の利益の源泉になることを前提とし、需給のバランスを十分加味し、需要旺盛な地域は「競争維持」、需要減少地域は「事業の健全な発展=適正な運営及び公正な競争を確保するとともに道路運送の秩序を確立すること」を図るようにすべきです。

例えば、「この法律は、貨物自動車運送事業法と相まって、道路運送業の適正な運営及び公正な競争を確保し、道路運送に関する秩序を確立するとともに、利用者の需給に的確に対応し、輸送の安全の確保を第一としながら、道路運送の総合的な発展を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする」とすれば需要サイド、供給サイドに配慮し、大都市には競争を、地域には秩序の維持を図りつつ利用者の利益を図れるようになるのではないでしょうか

2.交通政策基本法第13条に沿って、地域公共交通活性化再生法の改正と整合するように関連法案や通達を整備すべきです。

少子高齢化で需要が減退する地域では、利用者の利益は運賃が安いという以上に地域の交通網の維持に変わってきて、交通政策基本法第13条で地域公共交通活性化再生法の改正が行われ、これからは交通網と地方への権限移譲が図られるようになっています。

しかし、道路運送法や国交省の通達との整合性が上手く機能していない懸念があります。これらの整備をしないので、未だに旧来の競争自由がまかり通り、時代が変わったにも拘わらず旧来の敗訴の実績や訂正されていない局長通達などでマニュアル化した判断に陥り、地域の公共交通を守るのではなく、旧来の法律を守るような判断が生まれている懸念があります。

3.時代や地域に即した手続きへの変更が必要です。

人口や利用者減少地域の公共交通網を守るために行政判断と行政指導の範囲で以下の対応を行うべきです。

① 申請受付と同時に、内容を公表し反対聴聞を受け付け、広く地域の事情を把握すること。

② 地域の公共交通網に懸念が生じる事案には、国が交通政策基本法の理念である交通に関わる国、自治体、市民と交通事業者による責務と努力義務を勘案し、協議会の開催を主導する。この協議では、これらの申請がどのような影響を地域と業者に与えるかの議論を通じて地域の公共の福祉や地域の発展に結果的につながるか、路線網を維持できる公正な競争で利用者の利益になるかの進言をすること。

③ 地域公共交通網の維持に必要な路線の廃止届は、地域での聴聞と協議を通じて路線網の維持が何らかの方法で確保されるように配慮する等でコンセンサスを得ることを前提とすること。

事業者が提出すれば6ヶ月で廃止となるような制度が温存されれば、8割が赤字のバス事業の路線網の維持はできないのです。

4.交通網の維持が難しい地域では、「利用者の利益」は運賃がやすいことだけでなく交通網が維持されることと言えます。

従って、人口が減少する利用者減少地域の新規路線の申請は運賃のみならず運行回数の増加も過当競争と不当な競争を惹起することになります。

例えば、今回の例で言えば、認可された運賃は既存事業者の3割から5割安いところ、既存事業者としてはこれに同調せざるを得ず、これだけでも収入率は3割から5割低下することになります。これに加え、運行回数も3割も増えるので、一運行の顧客密度は単純計算でも、1/1.3の約77%に低下することとなります。そうすれば、総合的な経営の悪化は0.77×0.7~0.5 = 約54%~39%となり、実に4割~6割もの減収という極めて厳しい状況に追い込まれてしまうのです。

もちろん、この結果として利用者の増加が生じることが考えられますが、既に利便性が高い路線であり、その増加は減収を補うには到底至らないと考えられます。これが果たして道路運送法でいう「健全な発達を阻害する結果を生じるような競争」ではないと言えるのでしょうか?

運賃と繁忙時の運行回数だけをチェックする現行の仕組みでは、需要のない地域に供給過剰を惹起することにもなり、厳しい地域公共交通網を維持し得る審査基準とは言えません。従って、運賃のみでなく、運行回数の増加も経営維持に極めて甚大な影響があり、改善せねばならないのです。

5.路線のクリームスキミングも加味することが必要

路線網を維持するには、クリームスキミングでの運行回数のチェックと運賃だけでなく、市内の中心部から地域に延びている多客路線部分という、いわば美味しいところだけをクリームスキミングする申請か否かも交通網維持には欠かせないチェック項目で、これも「路線のクリームスキミング」として、クリームスキミングの概念に加える必要があります。

6.人口減少、需要減少時代に需給調整を廃止し、美味しいところのみを狙い撃ちする競争が自由にできるような規制緩和は問題があります。

統計的に人口増加が見込まれ、需要が増大する地域には現行の規制緩和で対応し、自由な発想で供給が多様化し、利用者に利益になる発想が活きるようにして、統計的に人口減少で需要が減ると分析できる地域には新しく需給調整規制を復活し、地域の公共交通の維持と事業の健全な発展の両立をはかるように道路運送法を改正すべきです。

7.地域総合交通局などの創設が必要

現状の鉄道局、海事局、自動車局の縦割りから総合的に地域にあった交通を考えるように、大都市圏交通局と地域交通局のように需要と供給に沿った地域別横串を刺した行政対応とすることも検討すべきです。

大都市圏では現行法で、地域交通は需給調整規制を復活して地域公共交通網の維持を図る必要があります。
ここまでの大改革と言わないまでも、「地域総合交通局」を新たに創設し、地域においては代替え輸送などの総合的見地から地域の自動車も鉄道も海事も一体に考える専門官養成と専門局が必要です。特に網計画で自治体に任せていったときのフォロー体制を組む必要があります。

8.地域公共交通網形成計画や再編実施計画のより速やかな普及

地域交通網形成計画は、3年半弱で約330件です。倉敷・玉野・瀬戸内市でも策定されているなど普及は進んでいるものの、岡山市ではいまだ策定のための協議会さえできていません。いつになれば交通網形成が実施できるのかということは、地域公共交通機関を利用している国民全員が疑問に思っているところです。また、自治体により強い権限を与える地域公共交通再編実施計画の大臣認定は20件程度と少ない状態です。

かかる喫緊の問題になっている地域公共交通の維持にはスピード感が必要で、行政としては明確に期限を切って取り組むべき課題です。そのためにも、地域公共交通再編実施計画の策定を推進し、地方自治体による地域公共交通マネジメントを推進する必要があります。地域公共交通再編実施計画では、自治体と各交通事業者の合意の下、計画に基づかない新規参入や退出を認めないこととなっており、現行法で国が持つ権限よりもより強い権限を自治体が持つことができる仕組みになっています。
国は責任をもってこれらの計画を迅速に推進していかねばなりません。

9.交通目的税の創設

現状のやり方では人口が減少する地方自治体では、財政的に路線を減少せざるを得ない環境にあるでしょう。地域交通網を維持するためには、ここで先進国型の交通税を創設する必要があります。

過度にマイカーに依存した社会から公共交通を利用することで、環境や健康、都市の安全や活性化のために、これらの財源確保にマイカーの抑制も兼ねて従来の道路目的税のようにガソリンに付加することが一つの方策です。そうすれば、旧道路目的税の如く国に半分、地方に半分の税収が地域に潤い、それぞれの自治体が自立した交通網を形成する財源になり、今までの守りの地域公共交通から、環境や健康、地域活性化に役立つ公共交通改め、攻めの交通政策が期待できます。

10.「乗って残そう地域公共交通運動」を国民運動として提唱

いくら財政的に地域公共交通を支えても、乗っていただけなければ意味がありません。少子高齢化の社会が進めば、後ずさりのパッチワークになってしまいます。

もうそろそろ低・中開発国型のマイカーへの極度の依存を改めていかなければなりません。東京、大阪、名古屋はじめ大都市は、すでに公共交通社会に転じています。地域だけが新しい先進国型の流れに乗れていません。豊かで、便利で自然豊かな人間らしい地域を創り上げ、環境や健康に配慮した地方に住みたいと思うようにすることこそが、大都市依存の日本の姿から美しい地域の日本へと変えていくのです。そのためにも、「乗って残そう地域公共交通運動」を国民運動として提唱します。

以上

【 参考 】
交通政策基本法(法制上の措置等)
第十三条 政府は、交通に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

道路運送法
(目的)
第一条 …輸送の安全を確保し、道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。

(許可基準)
第六条 国土交通大臣は、一般旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは、次の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならない。
一 当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること。
二 前号に掲げるもののほか、当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること。
三 当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること。

(一般乗合旅客自動車運送事業の運賃及び料金)
第九条 一般乗合旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般乗合旅客自動車運送事業者」という。)は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める運賃及び料金を除く。以下この条、第三十一条第二号、第八十八条の二第一号及び第四号並びに第八十九条第一項第一号において「運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない。

(公衆の利便を阻害する行為の禁止等)
第三十条 一般旅客自動車運送事業者は、旅客に対し、不当な運送条件によることを求め、その他公衆の利便を阻害する行為をしてはならない。
2 一般旅客自動車運送事業者は、一般旅客自動車運送事業の健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争をしてはならない。

以上

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