両備グループ
代表 兼CEO 小嶋光信
(両備ホールディングス株式会社 代表取締役)
(岡山電気軌道株式会社 代表取締役)
まずはじめに、両備バスおよび岡電バスをご利用頂いているお客様、関係者の皆様にご心配をおかけしていることをお詫びいたします。
なぜ、今この時に、両備グループが赤字となっているバス路線の廃止届を中国運輸局へ出したのか、御不審に思われていることもあるかと思います。
以下、本件に関する私ども両備グループの想いを書かせて頂きましたので、ご一読いただければと思います。
両備グループの両備バス、岡電バスでは創業以来108年にわたり岡山駅から西大寺に至る伝統的バス路線を育て、また、お客様の需要に対して応えるべく十分な運行を行ってきました。この路線に昨年3月末、岡山市内循環線を運行している競合会社が、「めぐりん益野線(仮称)」(以下「本件」といいます)を申請し、当局はその運賃が修正されることでこの申請を認可する方針であると伺っています。
この路線は、郊外線でありながら繁忙時は5分に一本、閑散時でも10分に一本という手厚い運行が行われている伝統的な路線です。しかしながら、少子高齢化で利用者の減っていく路線へ新規参入により供給が3割も増え、なおかつ運賃が3割から5割も低い参入が認められれば、当然ながら路線バス事業は大幅に赤字化し、路線を維持することはできません。
現在、日本のバス事業者の8割は赤字、鉄軌道事業者も7割以上が赤字の供給過剰の状況にあります。皆さんご存知のないことで驚かれるかと思いますが、両備バスは3割の黒字路線で7割の赤字路線を、岡電バスでは4割の黒字路線で6割の赤字路線を支えているのが現状です。
そのような状況において、本件のような黒字路線を狙い撃ちにした進出がなされれば、黒字路線も大幅赤字となってしまい、今まで黒字路線の利益で支えていた赤字路線の維持はできなくなります。しかしながら、たとえ需要が少ない赤字路線であっても、当該赤字路線をご利用いただいているお客様にとっては、日常生活の足として欠かせないものです。
当局は、かかる状況を知りながらこの進出を認めるとのことですが、私は、地方公共交通事業に携わる者として、当局が地域公共交通を破壊させかねない前例を作ろうとされている理由が知りたいと思います。
そして、これを前例とする日本全国規模での地域公共交通網の破壊という最も懸念すべき事態を阻止するため、また地域公共交通の実態を知ってもらうため、敢えて、この度、両備バス、岡電バス両社の赤字路線の廃止届を出させていただきました。
この届出については、既に各種報道でも大きく取り上げられておりますが、これを機に、全国の路線バス事業者が抱える窮境を知ってもらいたいと思います。このことで地域公共交通の実態が分かれば、全国で路線維持に苦しんでいる交通事業者や地方自治体も必ず呼応してくれるものと信じています。そして、その声が全国であがることによって、地域公共交通をサステイナブルに維持することができるよう、正常化に向かう機運が高まることを願っています。
道路運送法で需給調整規制が廃止され、路線バス事業の申請が許可制になって以降、バス路線の申請は、過去の訴訟を踏まえた紛争リスクから許可条件のみを形式的に審査することにより許可されてきました。しかしながら、その結果として安全管理体制の不備による重大死亡事故の発生や、賃金水準の低下による慢性的乗務員不足等の深刻な弊害が生じています。これらの弊害については、道路運送法の規制緩和による供給過剰と過当競争の影響が大きいと思われます。
一方で、少子高齢化の影響により人口が長期的に減少している地域においては、如何に交通路線網を維持するかが喫緊の社会的課題となっています。地方消滅が危惧され、地方創生が叫ばれる中で、需給調整規制の廃止に対する反省から、交通政策基本法や地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律等が制定されており、これらをはじめとする公共交通関連法令の解釈も、従来の「事業者間の競争による利用者利益の確保」の考え方から「地域公共交通の維持による利用者利益の確保」を主軸とする方向への転換が必要とされており、社会通念上、大きな変革が求められています。
本件は、「地域公共交通の維持・発展」に極めて甚大な影響を及ぼす事案です。そのため、私は、平成29年6月14日付で国土交通省宛に『仮称「めぐりん益野線」の申請が地域公共交通網に与える影響についての検証』という文書を提出させていただきました。そして、その中で本件の問題点を詳細に検証し、指摘いたしましたが、残念ながら十分にご勘案いただけなかったようで、本件について本質的な問題に触れることなく、「運賃」のみの修正を求められただけで、認可がなされてしまうと伺いました。このような当局の方針は、規制緩和当時の判例を恐れ、時代の変化に適合していない判断と言わざるを得ません。
法的観点からみても、本件は道路運送法第30条2項の「一般旅客自動車運送事業者は、一般旅客自動車運送事業の健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争をしてはならない。」という条項の趣旨に反するものです。そもそも同法は、第1条の「道路運送の利用者の利益を保護するとともに、道路運送の総合的な発展を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする。」という目的と整合するように解釈される必要がありますが、本件のように競合事業者によって利用者の利便が十分に確保されている既存の黒字路線への進出がなされ、これまでその路線の収益で支えられていた他の赤字路線を廃止へと追い込み、地域公共交通網を毀損するような行為は、まさに、「健全な発達を阻害する競争」であり、道路運送法の精神に適っていません。
本件申請に対し、認可を与えるということは、いわば108年の長きに亘り地域の皆様と手を取り合って、より便利で住み良い土地となるよう開発し、育ててきた美田(路線)に、そのような地域貢献を一切行わず、利益のみを収穫しようとする新規参入事業者に国がお墨付きを与えるということに他なりません。
本件は、両備グループの2社(両備ホールディングス株式会社及び岡山電気軌道株式会社)の利益にも甚大な影響を与える問題ですが、仮にこのまま本件の認可について、当局が地域公共交通網維持の観点から再考することがなければ、既に各種報道されているとおり、本件申請区域と重複する部分を含む一部の黒字路線の利益で維持されている7割程度の赤字路線については廃止、縮小せざるを得ません。本来、行政が守るべき「利用者の利益」が損なわれ、今後の地域公共交通網の維持・発展にも甚大なる影響を与える懸念があります。
当局が、何が地域公共交通の維持にとって最善なのかを考え、本件についての認可を再考されるのであれば、少なくとも本件申請の行く末に重大な利害関係を有する我々のようなバス事業者の意見を求める場を設け、その同意を条件とするか、若しくは、私が再三開催を要求している地域協議会等の公正な検討機関の判断に委ねるべきです。実際、全国的には路線権のある同業者の同意又は地域協議会での検討を経て認可の判断がなされています。
無論、公共交通事業に携わる者として、今回の赤字路線の廃止届により、多くのご利用者の方々にご不安を強いることとなることは重々承知しており、まことに申し訳なく思っております。しかしながら、今ここで我々が声を上げねば、そう遠くない将来地域公共交通網は全国的に破壊され、立ち行かなくなってしまうのです。
利用者全体の利便を無視した新規認可をして、長年守ってきた路線を赤字や廃止に追いやることが法律でしょうか?法律は正しい国民や企業、地域を守るものではないでしょうか?
どうか、地域公共交通の窮状を広く理解していただきたいと思います。
両備ホールディングス
岡山電気軌道株式会社