夢二郷土美術館 館長
小嶋光信
毎年9月16日の竹久夢二さんの誕生日には、その生誕を祝って夢二さんゆかりの竹久みなみさんや都子さんをお迎えし、「ゆめびぃ」の会員の皆さんやファンの皆さんでコンサートなどの催しをしています。
夢二本館の展示室を会場に、夢二さんの絵に囲まれて、ゆったりと音楽を楽しんでいただこうと、今年の趣向は日本初のハープセラピストの中野智子さんと、文化庁の「昭和55年芸術祭優秀賞」も受賞された米国出身のジョン・海山・ネプチューンさんの尺八によるジャズの共演でした。
夢二郷土美術館の小川マネージャーのアレンジで、洋楽器のハープを日本人の中野さんが、和楽器の尺八をアメリカ人のジョンさんが演奏という、なんともインターナショナルな組み合わせで、どんな「宵待草」が奏でられ、どんな風にジャズが演奏されるのか、大変興味を持って私も会場で聴かせていただきました。
尺八とハープが何の違和感も無く、雅楽の旋律の夢二さんの宵待草や、ジャズを演奏していただき、このミスマッチとも思われる和と洋の組み合わせに魅了されました。
それ以上にびっくりしたのが、ジョンさんの尺八の説明でした。一尺八寸だから尺八とは薄々知っていましたが、「尺八は二つに分かれますが、これはニホンの楽器だからです」と日本と二本をかけて満場の笑いを誘って、さり気なく「尺八は七つの節の竹で作られていますが、竹の長さが皆違うので、一尺八寸にあわせるために、真ん中を切って長さをあわせるのです。そして二つになることで持ち運びも便利です」と解説をして、一気に観客に尺八に興味を持たせて、心を掴んだのです。さらに「七つの節がある、それは七フシギ(節と不思議をかけて)です」と流暢な日本語で、ドッと観客は大爆笑です。まことに巧みなユーモアに思わず拍手喝采です。そして40年前世界の楽器の中で最も可能性を感じたということで、尺八を習いに来日、以来師範まで極めて、たった五つの穴の尺八で、フルートやオカリナや雅楽の音までも奏でて、尺八の可能性を理解させてくれました。
日本ではとかく芸術というと堅苦しく、生真面目にするという風潮がありますが、夢二さんのファンに尺八に興味を持っていただく、その普及をはかるという伝道師の役割からすればジョンさんの説明は素晴らしい説明です。興味を持って分かるように説明する、みなさんにファンになってもらうことが目的で堅苦しくキチンと説明しても、興味も理解もされなければ説明のための説明で、意味をなしません。学術的な発表なら別ですが、我々も夢二郷土美術館として、夢二さんの芸術をいつの時代にも興味を持っていただいて、ファンを創る伝道師の役割を持っているので、ジョンさんの説明は、目から鱗です。本当の達人とは、クソ難しく説明するのでなく、真髄を掴んで素人に分かりやすく、興味をもってもらうと言うことが分かりました。
「心の詩を絵で表したい」、「庶民の暮らしに芸術を」という夢二さんの芸術に一脈通じる、心を奏でる演奏でした。
夢二郷土美術館では多彩な催しが毎月のように企画されていますから、お気軽に夢二さんの世界を満喫していただいて、夢二好みのドイツ菓子「ガルバルジィ」と紅茶で、心の夢二さんと語らっていただいたら幸いです。