両備グループ代表:CEO
小嶋光信
両備グループの創立記念日は、西大寺鉄道の創業日である7月31日であり、この日には臨済宗妙心寺派の曹源寺で、原田ご住職はじめ禅僧のみなさんの凛とした読経で両備労使が物故役員・社員の慰霊をし、その後特別両備会(グループ各社のCOOが集まる全体会議)を行なうことが恒例になっています。
物故社員の慰霊は分かりますが、両備グループ全社の月一回行なわれる経営戦略会議である両備会を何故この日は禅寺で行なうのか不思議に思うかもしれません。
曹源寺は池田綱政公が津田永忠に命じて建立した池田家の菩提寺で、檀家は本来備前岡山藩主池田家だけであった名刹です。
両備グループ三代目のトップであった松田基さんは、自身が曹源寺の本山である臨済宗妙心寺派の管長であった山田無門老師に師事して、ご老師から池田家の菩提寺である曹源寺を頼むと言われたこと、また池田家には天皇家から池田厚子様が嫁がれており、ことのほか天皇家を崇拝していたこともあり、曹源寺を両備グループの物故社員の慰霊の地に選んだのです。
そして平成5年の創立83周年に、仏教の聖地であるインド・ブッダガヤの修行僧が製作した仏塔を京都の名工㈱石寅に施工させました。この仏塔を、両備物故社員の慰霊塔としてだけでなく、森羅万象、全世界の慰霊と併せて、故松田壮三郎さん(二代目)の人生・経営信条であった同恩思想を顕彰するために曹源寺に建立したのです。
曹源寺の慰霊塔の前で両備労使の幹部が集まって慰霊祭と両備会を行なうには、二つの意味があると思います。
1.両備グループはただ単に企業業績だけを目指すのでなく、経営理念と精神的バックボーンを大事にする企業グループであることを再確認すること。
精神的バックボーン無き国家や、社会や、企業や、家庭は、脆いもので、経済、社会や文化の変化に対応する際に、判断の根拠を失い、糸の切れた凧のようにどこに飛んでいってしまうか分かりません。まさに今の日本の有り様がそうでしょう。
今日両備グループがこの激変する環境変化を間違いなく乗り切ってこれたのは、まさにこの精神的バックボーンがしっかりしていたからです。
慰霊塔には、山田無門老師をはじめ、臨済宗妙心寺派が大事にしている「不二の妙道」の精神を中心に、松田壮三郎さんの大事にしていた「夫婦同恩」「親子同恩」「労使同恩」という同恩思想が彫り込まれています。これは、人や物事を対立的にとらえるのでなく、例えば「私とあなた」ではなく「私のあなた」とお互いを一つと捉える、すなわちお互いに「ささえあう」ということが大事であると教えてくれているものです。自他一如といって、自も他もない世界を考えることの大切さを唱えているのです。
両備グループの理念である「忠恕」は、真心からの思いやりであり、まさにまず自分の立場でなく相手の立場で思うことであり、不二の妙道や同恩思想に通じる考え方です。
2.先輩社員の努力の上に今日があることに感謝の精神を持つこと。
両備グループ各社、各事業がこうやって堅調に業績をあげられるのは、もちろん現在の社員、幹部と労働組合の努力が大きいのですが、今日あるのは先輩たちのお陰と言っても過言ではありません。幾多の経営環境の変化を見事に乗り切ってきて、今日を築き上げて下さったからこそ、現在があるのです。
この感謝の気持ちを毎年確認することが、実は今後の間違いない経営の舵取りに大事なことなのです。我々も先輩に負けない歴史を刻み、後輩たちにバトンタッチして行かなくてはならない責任を自覚できるでしょう。
両備グループのネクスト100年がスタートし、早2年目を迎えていますが、お陰様で順調なスタートを切っていると言えます。しかし、このネクスト100年を先輩たちのように間違いなく泳ぎ切るには、優秀な人材と強い企業体質が必須です。大企業並みの管理力、経営力という強い企業力を持つには多くの課題があります。特に現場力が大事です。
企業力をつくり込む時に、一方において精神的バックボーンである忠恕や不二の妙道や同恩思想や感謝の精神を忘れることなく、確実にバトンタッチしていくことが大事なことなのです。
今、両備グループの社会からの好感度は、まさにこの精神的バックボーンから溢れ出る、社員、幹部の忠恕の心からの行動と、人間性の部分が伝わった時に生まれているのです。