中国バス 社長
小嶋光信
今までにない、日本一、世界一のグッスリ眠りながら移動できる空間を創ろうというコンセプトで弊社を中心に開発をしていた高速乗合バス「ドリームスリーパー号」が完成しました。
今までの高速乗合バスは、4列シートから3列シートにする、カーテン等の工夫で個室感覚にする、内装を豪華にするなど、基本的にはバスのハード面の改良でした。快適性の違いはあっても、A地点からB地点に移動するということに大きな違いは無く、勢い運賃勝負の様相が強くなったのです。
運賃競争に拍車をかけたのがツアーバスの出現で、ついには似て非なる存在として、安全を損なう業態が生まれてしまいました。
今回のドリームスリーパーの開発コンセプトは「快眠」です。移動という手段だけを提供するのでなく、移動中の快適性や癒し効果など、移動すること自体を楽しんでいただこうということで、ハード面もさることながら、「快眠」を達成するソフト面を新たに付け加えることにより、世界で唯一のトータルな乗り物の価値を再発見していただこうという趣向で開発されました。
ぐっすり休んでいただくため、座席数を14席におさえました。前方4席のゼログラビティシートは、NASAの理論に着想した「深眠」が可能なゼログラビィティの座席に、さらに寝返りを打たなくてもぐっすり休める無圧クッションを採用して、世界で初めてのバスの座席を開発しました。ぐっすり寝れるのは、アロマの癒しや、桜色の照明や、快眠音楽や除菌脱臭による空気の快適性などのトータルな工夫によるものです。まさしくおしゃれで癒しのエステルームがそのままバスの居住空間に登場したといっても過言ではないでしょう。
この開発は、両備ホールディングスの松田専務が責任者として担当しました。私が当初予想した以上のコンセプトと出来栄えで、以下の彼の思いを読んでいただくことが、最も開発の心が伝わるでしょう。
DREAM SLEEPER
~ワンランク上の快適な移動空間へようこそ~両備ホールディングス(株)
専務取締役 松田 敏之1.コンセプト
快眠バス「DREAM SLEEPER」は、ご乗車くださるお客様に最高の眠りと上質なリラクゼーションをお届けすることをメインコンセプトとして誕生した、新発想の高速乗合バスです。
規制緩和以降、価格競争に陥り、安全や快適性よりも安い価格の移動手段として定着してしまった高速バスは、お客様のご意見を伺うと、特に深夜運行便については、移動時間がかかる、席が狭く座り心地が悪い、プライバシーが保たれず眠れないなど、安いが辛い乗り物になっています。
しかし、本来、高速バスこそが、忙しい現代社会のビジネスマンが時間を有意義に使える最適な移動手段ではないかと思ったのが今回のプロジェクトの始まりでした。
では、どうしたらいいか?
ひと晩かけて長距離を移動する高速バス。その間に感じるストレスを少しでも和らげるには?安全に目的地までお送りする間、心安らぐひと時を過ごしていただくには? …というひとつひとつの問題を考え、これまで採用されてこなかった、さまざまなファシリティを敢えて導入することで、移動しながら『心地よい眠り』を手に入れる!という、まったく新しい移動手段を提供したいと開発しました。忙しいビジネスマンの方が、時間いっぱい仕事をした後、目、耳、鼻、身体、全てでリラックスし深く眠りながら目的地に移動でき、バスを降りた瞬間から120%の元気で活躍できる空間を提供することが最大の目的です。
2.安らぎのナイトクルーズを予感させるエクステリアデザイン
楽しく、ゆったりと夢の中をいくような感覚を感じていただける外装デザインに仕上がっています。シンプルだけど特徴的で、パッと見て忘れられないデザイン。それをより際立たせるために、光のあたり方で色が変わって見えるグラフィックになっており、光源によってその表情をドラマチックに変化させます。
夜間は「DREAM SLEEPER」の文字や星が光り、浮かび上がって見えます。その光により、バス停や高速道路のサービスエリアで夜間でも見つけやすく、また、どこにいても注目を浴びるワンランク上のエクステリアになっています。
3.インテリアについて
まず、乗車いただく前に、靴を脱いでいただきます。床は全面カーペットにし、家でくつろぐのと同じような空間をつくりました。
ご用意したスリッパへ履き替えていただきご乗車いただくと、これまでのバスとは全く違う空間に入ってきたことに気が付くでしょう。思わず深呼吸したくなる香りも皆様をお迎えいたします。快眠セラピストの三橋美穂さんに、穏やかに眠りに入っていける香りをセレクトしていただきました。
車内には、ゆったりとしたプライベート空間を確保した14席をご用意しております。前列の4席がより個室感を高めたゼログラビティシート、後方の10席がエグゼクティブシートとなっております。各座席は、パーティション、カーテンで仕切られた独立性の高い空間になっており、ゆったりとお寛ぎいただけます。
ゼログラビティシートには、NASAの理論に着想を得た浮遊感を感じながら「深眠」できる理想 的な背座角度、110度を採用し(背もたれ角度を40度、座席角度は30度)、フットレストを心臓の位置と水平にポジショニングした無重力(=ゼロ グラビティ)状態を体感できる姿勢のシートで、より一層の眠りを誘います。2タイプとも昭和西川が開発したムアツふとんを採用し、寝返りを打てないバスの車内でも血行を妨げることがありません。また通気性の良いシートで、穏やかな眠りが期待できます。
さらに各座席にも「快眠」を装備しています。照明は「癒し」「安眠」には、学術的にも効果を認められたシャープさんのさくら色LEDを設置。また、全座席に眠りとリラックスを誘う株式会社デラさん激選のBGMが4チャンネルマルチ装備されており、お好きなリラクゼーションミュージックで心地よい夢の世界に入っていただけます。さらに除菌、脱臭効果、美肌効果、髪の毛にも優しいパナソニックの「ナノイー発生器」を設置。長い移動時間を快適に過ごしていただけます。
また、忙しいビジネスマンが直面する移動中のパソコン利用やスマートフォンの充電に関する悩みにも対応。全席にAC100Vコンセント、USB充電コンセントをご用意しました。Wi-Fi環境も整えましたので、安心してご利用いただけます。
車内後方には、シンプルで清潔感のあるホワイトを基調としたトイレとパウダールームをそれぞれ個室で設置しました。また、快適な乗車時間をお過ごしいただくための品質を追及したオリジナルアメニティグッズ(アイマスク、耳栓、櫛、歯ブラシ、スリッパ、ヘッドフォン)もご用意しています。
最高の眠りと上質なリラクゼーションにこだわった、色彩、あかり、音楽、香り、肌触り、浮遊感、無圧感を体全身で体験していただきたいと思います。
4.クリエイターの想い
今回は私の友人の有名クリエイターに無償で総監修をしていただきました。事情があってお名前はお出しできませんが、この方のデザインにかける想いを代弁します。
世の中を変えたい。社会の役に立ちたい。誰かを驚かせたい。笑顔にしたい。
そのためにはこれが必要だ!と言う熱い思いを持ち続ける。
それを皆さんの喜びにつなげたい。次なるものの創造だけが社内外に好い影響を与えられる。そのために、文化構想力を高めたい。
それはものごとの本質をとらえることから始まると考える。
現在足りないものを埋めて、その上に何かを築く。
その何かが出来てはじめてひとのお役に立つことが出来る。また、よい意味での裏切りと驚きが、ひとを笑顔にする。
その意味で、領域を超えていくことが大切だと考える。
その裏切りにこそ新しい世界があり、驚きと可能性がある。
その先に笑顔も見られる。プロダクトデザインが、モノのデザイン。と言う概念は旧い。
デザインとは、企業そのもの、ブランドそのものをかたち創る作業であり、
文化をかたち創る作業でもある。
読んでいただいて、開発責任者の想い、善意で総監修していただいたクリエイターの想いが伝わってきたと思います。
このバスが完成できたのは、携わっていただいたメーカー様方の献身的なご協力があってのことと感謝しています。この世界で初めての四感による眠りとリラクゼーションを追求した移動空間の概念が、きっと乗り物の新しい感覚と価値を創造してくれる乗り物の革命になるでしょう。
そして、再生して6年目、幹部と乗務員の懸命な努力で、今では10万キロ当たりの有責事故率0.05レベルという日本一とも言える安全性を誇る中国バスの乗務員が、安全・安心な心地よいバスの旅で皆様を目的地までお送りします。