井笠鉄道破綻から明らかになった政策課題

両備グループ代表:CEO
小嶋光信

今回の井笠鉄道の破綻で分かったことは、現状このようなケースに対応できるような法律では無く、また行政的手だてが乏しく、対応が難しいということだ。

すなわち、

  1. 路線廃止は6か月前に申請ということだが、そもそも6か月前に倒産を予想するということは無理だし、また分かっていても申請すればすぐに燃料や修理が止まるし、肝心な運転手さんたちは我勝ちに退職金や有給消化を求めて辞めてしまって、運行継続が出来なくなる。6か月前というのは健全な企業が一部の路線廃止の時に出来ることであり、このようなケースでは機能しないと言える。
    特に、資金繰りや手形決済が出来なければ、経営を続けようと思っても、ある日突然、例えば銀行が運転資金の融資をしてくれなかった、もしくは今回のように退職金債務で銀行口座が押さえられるというような心配がある事態では、バッタリ倒れてしまって、対応の余裕が無くなる。このような時のために、公的機関で次の経営の引継ぎをするまでの緊急融資か緊急補助をするとか、シームレスに路線再建する方策を考えておかなくてはならない。
    前述のように、全国の路線バス業者の7割が赤字で、その半分がこの5年以内に倒産の懸念があるという私の予測が当たれば、全国で同様の事態が次から次へと起こっても、今回何とか凌いでいるように上手くいくケースは少ないだろう。
  2. 今回では約1400万円分の通学定期や通勤定期が使えなくなり、社会問題化するが、これらの定期券客を救済する手立てがない。その分を保全するために、その額の預金に質権設定をするか、別途引き当てをさせるか、保険を創るか、万が一の時に払い戻しするかの方策を取らねばならない。
  3. 緊急の代替運行には、道路運送法第21条の緊急の対応をするが、第4条の補助金をもらっていた会社が倒れても、第21条で緊急に再建した路線には国の補助金は出していただけない。全てその県と市が持ち出しになるが、それでなくとも財政の厳しい地方行政にとっては予想外の大きな負担になる。このような路線喪失の懸念のある場合には特例をもって、少なくとも補助金の国の分担分を使えるような措置が必要だ。法は本来、国民を守るためにあるのであり、法を守るために法があるわけではない。

この財政措置が無ければ路線再建は、国の減った補助金分だけ路線と便数が減少することにならざるを得ない。基本的に、今まで自主再生や更生法で上手く再生されてきたが、今後はこのような緊急事態になる懸念が強い。突然のように思われるが、本来キチンと予測が出来るといえる。

そのためには、毎年毎年の損益を見るだけでなく、会社がどれくらいの累積赤字と借り入れがあるか、純資産はどのくらいあるかを調査すれば、経営的にどのくらいその企業がもつかは一目でわかる。
少なくとも年商を超える累積赤字があれば、赤信号だ。

今後安定的な交通体系とネットワークを維持するためには、最低でも公共交通会社の経営を行政が理解し、把握することが大事になる。サステーナブルな交通の維持には、サステーナブルな経営が前提となる。
経営をチェックするには、許可では把握できない。認可でしっかり経営を読み取る行政力が必要になる。

その出発点として、是非とも交通基本法の早期成立と、関連法案の整備および、財源の確保が要る。今のままでは、身動き取れない、陸の孤島のような地域が散在する国になってしまうと、敢えて警鐘を鳴らしたい。これは喫緊の国家的課題である。

両備グループ
中国バス