両備グループ代表兼CEO
小嶋光信
社員の雇用が60歳から65歳になり、乗務社員のように70歳近くまで雇用延長が行われるようになり、現場における社員が高齢化したにも関わらず、どこの職場も(勿論両備グループだけでなく全国的に)現場における高齢化社会に対応した労務管理への転換が、研究不足、対応不備になっていると思われる。
車で考えれば分かりが早いが、60年償却を70年償却に変えるのだから、使い方、メンテナンスの仕方、途中での大幅な補修などをチャンとしないと整備不良になるといえ、こと人間社会でも同じようなことがいえるだろう。
「両備健康づくりセンターで健康改善」
両備グループでは、これらの高齢化社会への対応のために両備健康づくりセンターを創設し、健康面において35歳からの人間ドックに切り替え、且つメタボリックの社員には両備健康塾、死の4重奏と言われる高血圧、高血糖、高脂血、肥満には産業医と現場管理者との管理対象社員として健康改善に努めている。人の命をお預かりする事業だからだ。
予てから両備グループは年齢定年制から能力定年制に将来的に切り替えていくと経営方針を示しているが、この背景は、
- 年金問題などで、70歳くらいまで働かなければ安心した人生設計を出来ない社会になってきていること。
- 少子高齢化で、運転職など一部職場で人材不足をきたしてきたこと。
- 企業にとっては、これらの高齢化に対応して、能力主義に賃金体系などを転換することで、年功序列型賃金の適正化を計り、また年をとっても能力の高い社員・幹部についてもただ年齢が高齢化したというだけで賃金を下げずに、能力に見合った処遇にすることでモラルを維持することなどが急務になったこと。
があげられる。
このために社員能力アップの方程式を設けて、
「社員能力UPの方程式:個人業績=健康×能力×やる気=社員の幸せ」になるように、オペレーションしている。
また、社員の努力に出来るだけ報酬が適合するように社員決算賞与制度など、第二の賞与も設けてモラルアップに努めている。
健康管理に於いても、他社の高速道路における運転中の死亡事故や、大きな事故につながりやすい居眠り運転などから、健康管理の必要性がやっと現場で理解してくれ始めたが、まだ危機意識がCOOや経営職・管理職・監督職に足りず、他人事のように考えている者もいることは事実だ。
「現場労務管理が問題」
また、現場労務管理上に於いて手つかずになっているのが社員のやる気管理で、COOや経営職・管理職、監督職の「社員やる気管理」の能力開発が急務だ。現在、幹部に社員の個人ヒアリングを義務付けているのはこの第一歩だ。人を育てることが管理職、経営職の仕事であることを忘れ、作業が仕事と勘違いしている。
毎日、毎日皆が、健康で出勤し、能力を現場で磨き、やる気をもってSSPup [安全(safety&security)・サービス(service)・生産性(productivity)の改善運動]に取り組むように、社員一人一人を管理することが現場の労務管理だが、この労務管理をしっかりやっているCOO、経営職、管理職が少ないことが問題といえる。ただ社員に仕事を与え、結果と、起こった問題だけに対処しているケースが多いことを改善せねば、大手並みの労務管理にはならないといえる。
昨今やっとこの真意をCOOや経営職・管理職、監督職のみなさんが理解してくれて、健康管理に、社員教育での能力アップに努力しはじめたが、この定着が大事だ。
労務管理が行われていた時代は、
- 朝一番の挨拶と顔色の管理
この、朝一番の社員の様子が一番大事な労務管理で、悩みは無いか、健康か、今日一日元気に仕事をするかを見て、その上でやる気を出す一言が大事だ。くれぐれも朝一番小言から始まらないように、小言、苦言は間合いを見て別室で静かに話すことが大事だ。 - 帰社した時の様子管理と翌日にやる気で出社するような一言掛け声管理
帰社した時の、上司の「お疲れさん!明日も頑張ろう!」の一言が、ああ私の仕事が終わるのを待っていてくれたのかという、同志的結合になる。 - 退社後社員と一杯やりながらのヒアリングでの本音管理
微妙な教育は、会社の机に座っての会話ではキツクなるので、退社後、喫茶店でもビアガーデンでも、リラックスした雰囲気、聞く気にさせてじっくり話すことが、却って問題解決の時間短縮になり、効果的だ。 - 無断欠勤や遅刻多発社員の家庭訪問管理などキメのコマかい労務管理
家庭を見れば仕事が分かるというように、職場だけで解決しない問題が多々ある。家庭に行ってみれば、社員の幸せが達成されているかが良く分かる。相手の立場に立って親身になってあげれば、理解は早く、信頼感が増す。
が上司に求められてきたが、残念ながら現在は作業の指示だけに終わっているような気がする。
「ケーススタディー:職場での警察沙汰の出現」
昨今バス部門と、タクシー部門で二件の警察沙汰が起こった。高齢化社会の労務管理への問題提起がなされた案件だ。
共に高齢化した社員で、普段から服装や態度や、勤務ぶり、サービスの問題や居眠りによる自損事故などで、現場で管理職・監督職が注意していたが、直す意思がなく、管理職を逆恨みして起こった事件だ。
A:Tバス会社のケース
Tバス職長(57歳)は、K乗務社員(58歳)に常々頭髪の色のこと、営業車内における喫煙のこと、車両手入れについて度々指導していた。6月22日にも営業車両の手入れ(洗車)について、注意をした。
その事が不満のようで、翌日6月23日は9時出勤日だったが、S常務に当日8時頃電話で「今日やめる。」旨通告してきた上で、当日午前中に書類を出し退職した。
T職長は、皆に迷惑をかけただけでなく、あまりの辞め方に腹を立てていた。その後、乗務員が会社に来て、皆で買い置いたコーヒーを勝手に飲んで帰った事を聞き、益々腹ただしく感じていた。
7月10日頃、制服の返却がないので、T職長からKに返却の依頼をし,7日後に制服を持ってきたので、T職長はKに対して「なんであんな辞め方をしたのか?迷惑をかけた人に謝ったのか?」と叱責したところ、Kは「あんたが朝からガミガミ言うから辞めたのだろう。」「だれでも朝からガミガミ言われれば嫌になる。」と言い合いになった。社内では仕事に支障を来すので、「外へでんか」と言って、Kの二の腕を取った際、カッターのボタンが1つ取れ、Kは警察にボタンが取れたカッターの写真を持って行ったというお粗末な事案だ。
B:タクシー部門のケース
S乗務社員は、7月20日は勤務日で、当日の運行管理者はI次長だった。
Sが7月19日の夜間に起こした自損事故(走行中に縁石へ乗り上げ)について、当日の運行管理者であるI次長は前日の次長より内容を聴取するように引継を受けていた為、出社時に聴取を行った。
自損事故の原因は居眠りに起因していた為、どの時点で眠気を感じていたのか?重大事故につながる事案であり、売上面への貢献はあるのだが、体を休めることで疲労の蓄積などを改善する必要があると考え、しばらく勤務時間を削減することを指導した。
当初はおとなしく指導を受け入れていたが、事故の原因について指導していたところ急に怒り出し、もう会社を辞めると言って、事務所を出て行った。
その後Sに電話をしたが、話は平行線になったため、I次長は過去の指導に関しても不満を持っているだろうと思い、そういったことも2人で話そうと切り出したが、「話すことはない。もういい。殺しに行く」等の発言があり、電話は切られた。
その後、家庭で飲酒したSは, 21:00分頃突然事務所に入ってきて、I次長を脅した。
この時点で他の乗務社員数人が目撃していた為、すぐにSのそばにきて、制止しようと間に入り、異変に気付いた別の社員が警察へ通報して、21:08分頃駆けつけた警察により逮捕された。
両ケースでの問題点
A:乗務社員サイドの問題
- 挨拶しない、服装態度が乱れている、車の清掃をしないなど、5S・AFに問題がある社員のケースが多く、共に注意しても改善しようとしない、常習的な傾向のある問題乗務社員だった。
- 叱られ弱く、ちょっとした言動で切れやすい。
- 注意を受けるとその上司を恨む傾向が強い。
B:管理者サイドの問題
1. 叱り方が適切だったかの問題がある。
- 叱るとき、個人的に注意するときは必ず別室で、相手の立場に立って優しく問題点を指摘し、本人の反省を促すような対応を取らなければならない。こちらが怒りを表すと、必ず相手は挑戦的な態度を取るので、忠恕の対応がなされていたかがまず問題になる。
- 上から目線の指導は、反発を買う
最近の風潮で、上から目線で物を言うと、過剰に反発する傾向が、社員にもお客様にも見受けられる。ちょっとした不用意な言葉、クラクションを鳴らしただけで刃傷沙汰になるケースが多く、要注意だ。 - 上司が若い場合、この若造がという心理が働く
高齢化社会では管理職、経営職の方が現場社員より若いケースが当たり前になっているが、年長者に対して部下呼ばわりで、呼び捨てにしたり、挨拶も敬意を払って対応しないと、直ぐにカチンとくる社員が多い。 - 高齢化社員は叱られると逆恨みをするケースがある
年を取ると若い時に素直になれたものが「この野郎」という反発意識が先に立ち、それが家庭に帰っても尾を引いて、過激化する傾向がある。気が短くなる、人の言うことを素直に聞かないことは老化現象の一部だ。
現場労務対策の重要改善点
- 年齢や、職制によって名前を呼び捨てにしたり、上から目線の態度を取ることなく、誰にでも公平な対応をすること。
例えば、挨拶は、呼び捨て、君付け、さん付けなど自分の立場より上下で変えたりせず、全員社内では「さん付け」にすることで、社内の雰囲気は変わってくる。 - 先ほど示したように、出勤時、退出時に、管理職、監督職から声掛けして、本人の様子を把握する。
- 出勤時に社員がやる気を失うような言動を取ることをせず、注意するときはキチンと時間を取って、お互いに冷静な立場で、別室にて話をすること。
- 忠恕の精神で、相手の立場にたって注意したり指導すること。
最悪の指導は、会社の決まりだ、上司からの指示だという言い方であり、一番反発を受ける。事故やサービスの問題でもそれをキチンとすることで、恩恵を受けるのはむしろ自分のためであることなど、相手の気持ちを察して、自ら反省するように話をしなければ労務管理にはならない。孔子様が言っているように、「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」で、自分がやられたら気分が悪くなるような指導は厳に慎むべきだ。
TPOが全く配慮されない指導が、反発を招いている。
会社の管理体制の変更
- 管理職による社員の面接を義務付けているが、社員の評価をしっかりするとともに、問題が起こりそうな社員をしっかり把握して、個別社員の労務管理方針を現場監督者に指示すること。
- 普段から問題のあった社員には、指導や注意を個人台帳に記載して、推移を把握するようにすること。
急に重大問題になるケースは少なく、かなりの長期間現場での問題が鬱積して起こっているケースが多い。 - 同じことが2~3度続いたときは、就業規則に則って、キチンと懲罰委員会を開いて、労使で対策を講じること。始末書、反省文、場合によっては懲戒などで、キチンと是々非々で対処し、問題社員を改善せずに職場に漫然と置いておくことがトラブルの原因になる。従って、始末書何回でどのような処分、懲罰何回でどのような処遇を取るか労使で話し合って明確にしておくことが大事だ。相手によって処分が違うことが新たな問題を起こすことになる。
- 何度も職場で注意しても改善しない問題社員は、それ以上職場で深追いしても改 善効果は上がらず、むしろ逆恨みなど問題を起こすので、60歳以上で経験豊富で、相手の立場に立って指導できる専門家を養成して「労務管理改善役」として任命して対応するようにしなくてはならない。現場で仕事に貢献して、自らが模範的な仕事をしている人望のある監督者クラスで、組合経験があればなお良いだろう。
- 現場では、仕事優先、売上優先の意識が働きすぎて、これら問題解決に時間も費用もかけたくないという意識が強い。このような問題解決のための社員教育、意識の変革には費用を惜しまぬことが大事で、現場からその社員を離して、しっかり教育し、解決することが職場のモラルアップやSSPupに好影響を与える。
急がば回れだ。
以上
2013.8.13