開発途上国への公共交通事業支援への一考察 -ラオス公共交通視察団来社から-

一般財団法人 地域公共交通総合研究所 理事長兼両備グループ代表兼CEO
小嶋光信

                

この8月末に、ラオス国の公共事業と交通を担当する省とヴィエンチャン市の首都路線バスを運営する公社の幹部8名の視察団が両備グループを視察に訪れた。

岡山への訪問は今回で3度目という。それは、岡山市における路面電車や路線バスと、市内中心部の天満屋バスステーションや西大寺のバスターミナルなどの公共交通施設が、ラオスの首都機能を高めるための公共交通事業をどのようにするかを調査、研究する対象として、大変向いているという事情で選ばれたためとのことだった。

ミャンマーでの経験やラオス国などの事情から、アジアの開発途上国にとって公共交通の問題は下記のような様々な大きな悩みを抱えている。

  1. 公共交通を整備する財源が不足している。
  2. 法整備が十分でない。
  3. 公共交通そのものに対する考えが十分出来ておらず、古いバスを買ってきて走らせれば公共交通と思っているケースが多い。即ち、乗合タクシーの経営にバスを使って運用すれば良いというレベルで、本来の公共交通の認識が乏しい。
  4. 軽油などの石油資源が物価との兼ね合いで極めて高くつき、総経費の40%程度を占めることが、コスト削減の大きな足かせになっている。
  5. 安全やサービスと運行管理に対する指導・教育力が不足している。
  6. 車両整備の技術と人材が不足している。

確かに、これらの問題の解決には、日本で確立されている公共交通のノウハウが極めて有効だが、コストや国策による支援レベルは中国や韓国が強烈に進めていることで、日本が劣勢であることは否めない。

開発途上国の公共交通支援には、短期的には路線バス事業が有効で、国の発展度合と財源との兼ね合いで、大量輸送による高速交通化、快適化の要請が出てくるので、中長期的には鉄軌道が必要とされるだろう。

特に開発途上国でも、いわゆる首都をはじめとして大都市化したところは、いずれもそれほど先進諸国との隔たりは少なく、市内中心部においては早急なLRT化が有効と思われる。両備グループの岡山電気軌道がインドなどアジア諸国のLRT化の調査、研究に協力しているのはそのためである。

  1. 前述の燃料事情などを考えると、ラオス国の首都ヴィエンチャンでは、今後架線レスのLRTや路線バスが有効な公共交通と思われるが、それにしても国の財力不足の問題が大きく立ちはだかっているといえる。
  2. 財源が乏しい現状では、安全やサービスと運行管理に対する指導・教育が早期に効果が期待でき、有効といえる。弊社で行っているいわゆる運転手の右足の訓練と始業点検、軽整備で、10~20%燃費改善出来るのではと思っている。
  3. 公共交通の経営のあり方は、すでにマイカー時代の急速な進展で先進諸国の轍を踏まないように、私が提唱している公設民営あるいは公設民託が有効といえる。
  4. 特に開発途上国の首都機能の近代化に協力することが日本国の支援としては有効で、支援の「見える化」となる。毎日多くの国民、市民が利用し、目に触れる広告塔になるからだ。
  5. 中国や韓国のように、思い切った国と事業者が一体となった支援は強烈だが、日本のバスやLRT、電車の技術力と運行の管理力への信頼は抜群で、いずれの開発途上国も日本からの財源をセットとしての協力を望んでいる。

民間が事業として単独で開発途上国の公共交通事業に参入することは、あらゆる点から難しい。JICAや国土交通省という国の機関と、公共交通事業者と輸送手段のメーカーや商社が総合的な協力チームを結成することが、アジア新時代の日本の国際的貢献に有効な手段になるといえる。
ホームページには当日説明に使ったラオス語と日本語でのPDFをつけてあるので参考にしていただきたい。

参考資料
地域交通の再生と地域づくり
 >ラオス語版(PDFダウンロード)
 >日本語版(PDFダウンロード)
 

以上

20130907

地域公共交通総合研究所