岡山大学法科大学院と研究連携協定締結!!

(一財)地域公共交通総研 理事長
小嶋光信

岡山大学法科大学院から、両備グループで数々行ってきた地域公共交通の再建と、研究や分析、それに伴う提案、提言や、交通政策基本法に至る法律の成立にかかわってきた実績などで培ってきたノウハウを活用し、公共交通に強い弁護士を育成し、経営悪化する地域公共交通の再生に取り組む自治体支援に積極的に関わっていきたいという目的で、弊財団に連携の申し入れがあり、この3月9日に上田信太郎法務研究科科長と協定書に調印しました。

実は、私が公共交通の再生に取り組んできたのは、勿論お困りの地域の公共交通を救うことも大事でしたが、2002年の規制緩和で実質的に公共交通を含めた運輸関連の法律から需給調整規制が緩和され、事業者が許認可で守られていた法律から利用者の利益だけを尊重する法律に変わってしまったため、多くの破綻や問題が生じ、それらの解決を法律的にしていかなくてはならなかったからです。

規制緩和で公共交通とは名ばかりとなり、競争重視で、採算に合わない路線は辞めればよいという法律により、全国で30数社の公共交通事業者が倒れ、25%以上の路線が失われていく現状に危機感を持ちました。

ヨーロッパなどの先進諸国、特にフランスなどは移動権・交通権を認め、公設民営で公共交通の維持を図っており、民間に公共交通を任せ切ってしまった国は日本だけと言う現実を研究で知り、愕然としました。しかし、10数年前に規制緩和の問題や、交通権や公設民営の話をしても、全く行政も公共交通業界も理解を示してくれませんでした。

当時の規制緩和旋風、既得権益にあぐらをかく業者の打破と競争の促進、費用対効果の考えなどの風潮に圧倒的に煽られて、私の意見は少数意見とみなされていました。規制緩和による行政手だてでは、70~80%以上が赤字化した地域公共交通を救うことは出来ませんでしたが、たまたま30数社の破綻には、経営が不味かったということで救いの手が差し伸べられ、新しい経営者により現行法で再生されていきましたので、全く本質的な危機感を持っていただくことはありませんでした。あぐらをかいた放漫経営が是正されている程度で、社会問題化されませんでした。

そのため、公設民営なども理解を得られませんでしたが、津市から中部国際空港への海上アクセスが出来ないということで、津市からのご相談にボランティアで協力し、公設民営による提案をしたことが採択され、頼まれて公募に参加して運航を実施して大成功をするという実例が出来ました。
この公設民営の方法で和歌山電鉄貴志川線を再生し、鉄道に於ける公有民営の再建が国にオーソライズされました。
中国バスの再生では、補助金の副作用を立証して、補助金にインセンティブを入れるという国の施策が生まれました。

そして、この中国バスの再生に感謝された宮澤洋一衆議院議員(現参議院議員)が弊社を訪問戴いた折に、私が中国バスの問題は、この一社の経営だけの問題ではなく、日本全国の地域公共交通に内包する問題であることを説明しました。宮澤議員に国での対策をお願いしたところ、地域公共交通活性化小委員会を当時の与党の自民党内に作ってくれて、私に自民党国会議員の朝食会で最初の問題提起をさせてくださり、「地域公共交通活性化及び再生に関する法律」が出来ました。

ところが、民主党政権になると、一転そのマニュフェストには公共交通のコの字もなく、岡山県選出の民主党衆議院議員の4名の皆さんに会談を申し入れ、その場で地域公共交通の実情をお話ししたところ、国土交通省の当時政務官の三日月さんに話していただき、国土交通省として地域公共交通の検討会議が開かれることになりました。

その会議で私から抜本的改革の必要性を論じさせていただいたところ、即時採択され、「交通基本法」の検討へ進んで行きました。交通基本法は閣議決定され、市民団体の協力などで三党合意もされましたが、残念ながら再び政権が変わり、継続審議になってしまいました。

当時は、今までの破綻も経営に問題があったからという認識程度で、何処かが助けてくれたという過去の実績から、私が平成24年2月に出版した「日本一のローカル線をつくる たま駅長に学ぶ公共交通の再生」で指摘していた今後5~10年で地域公共交通の半分は破綻するという分析も、そんなことにはならないだろうと一蹴されていました。

ところがその指摘のわずか8か月後に井笠鉄道が破綻を発表し、たった19日で岡山県の西半分、福山市の東の一部の路線バス事業が消えゆく運命になったのです。国、両県、関係市町からの代替え緊急運行の依頼が両備グループに集まり、全て50%以上の赤字路線の再生に公設民託という処方箋を提示して、この路線再建を果たすことが出来ました。

この大問題には、笠岡市の三島市長はじめ、自治体の皆さんのご努力は凄いもので、たった数日で私の提案の公設民託を理解され、行政の協力で路線維持の骨格を一緒に作っていくことが出来たことが再建できた大きな要因です。

井笠地区の衆議員議員の加藤勝信さんに実情を話し、交通基本法の成立に向けて安倍総理大臣に陳情書を書き、これの効果があったのか、昨年11月12日に「交通政策基本法」として衆議院国土交通委員会で審議入りして、その参考人として陳述させていただく機会に恵まれました。お陰様で、法案が成立し、やっと交通政策、特に地域公共交通の問題に日が当たり始めました。

このように、法律は社会問題が複数起こって、心ある議員により国会で取り上げられ、法制化に向かって関係省庁の法案化の努力があって出来上がっていくものなのです。

いくら私一人が問題提起し、多くの再生をしても法律は出来るものでなく、国家的問題と政治家が取り上げてくれて、関係省庁の官僚の努力と相まって国会で法制化されなければできないのです。

昨今の風潮は、国会議員がどうの、やれ官僚がどうのという負の指摘や世論では、良い国は出来ないという証左です。賢明な国民、素晴らしい問題解決能力のある政治家、有能な官僚が相まって良い国が出来るということは、しっかりこの地域問題から理解が出来ると思います。

地域公共交通の維持発展は、事業者任せでは出来ず、行政や利用者の視点から総合的にとらえる必要性が出てきました。これからますます具体的な法案づくり、財源づくりが必要になる中で、地元の岡山大学法科大学院がいち早くこの問題を捉え、地域公共交通の法律に詳しい法曹界の研究と人材養成に弊財団との連携を申し込んでいただいたことは大変嬉しく、我々の連携による研究努力と人材育成が全国の地域交通の維持発展に寄与できれば幸いです。

20140311

>地域公共交通総合研究所