(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信
約3年に及んだ新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックに見舞われ、窮地に立った地域公共交通も、2023年5月の人流制限の解除から「2024年問題」が適用されて2年目を迎え、地域公共交通事業者各社の経営も小康を取り戻しつつあり、何となく「喉元過ぎれば…」の感がある。
しかし、30年以上の間、8割以上が赤字経営を続けてきた日本の地域公共交通がこのコロナ禍を経て本当に小康状態にあるのか、このままの地域公共交通行政による支援体制で本当に経営の維持ができるのか、構造的問題は無いのかを深掘りすることを目的に、今回は、調査対象を従来の「ある程度の規模」の交通事業者476社から小規模事業者や第三セクター社も含めて1,105社に拡大して調査した。
設問の回答で特徴的なことは、
・特に人手不足問題はバス事業(従来から回答をいただいている路線バス保有台数30台以上の会社)では2020年度と比べ人員が減少した事業者は、ほぼ100%であり、鉄軌道は6割強、旅客船は約5割になっている。
・国や自治体の支援で損害をカバーしている企業が5割を占め、債務超過は2割と横ばい。コロナ禍の負債を自力では「返済困難」が2割、返済期間が「10年以上」が4割でコロナ禍の傷跡は深い。
・ほぼ100%の事業者が国や自治体の財源確保が必要と回答している。一方、1割強の事業者は返済済と回答があり、返済についての見通しは2極化しており横ばい状態である。
・前向きな動きとしてはEV化や自動運転、キャッシュレスなどデジタル化の導入に5割が何らかで実施し、「今後取り組む」は2割と前向きな意見がみられることは明るい話題だ。人手不足にAIを活用したオンデマンドバスの試験導入やAI対応電話やロボット点呼に取り組む事業者も出てきた。
今回から分析の補助ツールとしてOpen AI 「ChatGPT3o-mini-high」を使った。この結果、経営を圧迫する要因への自由記述(168社)の内容は、以下のようなウエイトで分類している。
経営を圧迫する要因へのフリーアンサー(168社)の内容は、
- 燃料高騰問題(37社・22%)
- 人手不足問題(31社・18%)
- 人件費高騰問題(20社・12%)
- 利用者減少問題(20社・12%)
- 設備投資・修繕費の増加問題(17社・10%)
また行政の支援や制度改善へ期待への自由記述(143社)の内容は、
① 補助金・補助制度(30社・21%)
② 制度改善・規制緩和問題全般(26社・18%)
③ 燃料費補助(25社・17%)
④ 人材確保対策(18社・13%)
⑤ 車両購入・設備投資支援(15社・10%)
となっており、経営圧迫の要因の現状や行政の支援や制度改善への大きな期待が窺える。
また、2024年問題に関する自由記述の頻出語句の分析から推定されたことは、厚労省の改善基準告示第5条で規定される「休息期間」が従来の8時間から、新たに9時間を下回ってはならないと変更されたことで、バス事業において特に顕著な影響があり、減便や始業時間の繰り下げ、及び終業時間の繰り上げの問題に直結していることである。今後さらに休息期間が延長されることは、バス業界の運営に大きな影響を与えるだろう。
更に今回のコロナ禍を通じ、国や自治体が地域公共交通の実態に危機感を共有し、事業者と共に維持していこうという機運が高まったことが、交通政策基本法に示されているとおり、国と自治体と市民と交通事業者で日本の交通を支えるという大きな流れに沿ってきたことが不幸中の幸いだ。
アンケートの結果ではないが、地方鉄道の公有民営化に続いてバス事業では初めてと思われる公設民営が岡山市の公共交通網形成協議会でバス路線の支線で取り組まれることになったことも注目すべきことだ。
コロナ禍の災い転じて福となすには、30年以上赤字体質の地域公共交通事業者がぬるま湯を飛び出て一生懸命に経営努力すれば公設(有)民営や民託制度のように黒字を出せるビジネスモデルに大きく変換することで日本の地方創生の基盤づくりになるだろう。
国土交通省のリ・デザイン政策で現状の公共交通の課題が支援されていることは高く評価するが、設問でほぼ100%の事業者が国や自治体の財源を求め、9割が利益体質への制度改革を求め、フリーアンサーでも回答全社182社のうち143社が何らかの行政支援や制度改革を期待していることからも分かるように、交通政策基本法第13条で「法制上又は財政上の措置」を講じなければならないと明示されているように「運送法の改正」と「財源の確保」で「抜本的な利益体質が可能になる事業モデルの変換」、すなわち、たちまちの維持・改善はリ・デザインで行い、将来の改革へはリ・ビルドに進むことを切に願っている。