両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信
昨年は、新年早々から能登半島地震や日航機炎上事故等のとんでもない大災害の連続から始まった一年でしたが、今年は打って変わって穏やかな新年の幕開けとなりました。皆さん新たな気持ちでご家族ともども楽しい新年を迎えられたこととお慶び申し上げます。
天変地異が人災を誘発?
昨年は日本だけでなく世界中で気候変動や地震などの天変地異が頻発しました。自然がおかしくなると人間も影響を受けるのか、ウクライナとロシアの戦争やイスラエルとハマスの紛争、シリアの独裁政権の崩壊と世界各地で不安定な政局が続きました。日本でも圧倒的与党だった自民党が少数与党に転落するなど年初から「大変な一年」でした。
歴史は巡ると言いますが、天変地異や大災害が起こると飢饉に見舞われ、人心が乱れて政治の不安定や民族の諍いという人災が頻発し、戦争へとつながるという恐ろしい連鎖反応が起こるケースが見られ、特に最近は極端な自国主義や保護主義が台頭し始めて理想とする世界からだんだん遠ざかっているのではないか…と不安が広がる状況です。穏やかで平和な世界を心から願っています。
今年の景気はとよく言いますが、良くも悪くも「トランプ占い」の年になるでしょう。
悪いニュースでマインドコントロールされ“日本病”にならないように!
こんな時期には悪いニュースばかりを見聞きすることでマイナス思考のマインドコントロールに引っかかりますが、そうならないようにすることが肝要です。いつも「ピンチはチャンス」で、「守って勝った大将なし」とお話しています。両備グループが今日あるのは時代に迎合せず、むしろ時代の逆張りで“日本病”ともいえる社会全体が守りの姿勢であった「失われた30年」に攻めに転じて大きく成長したからです。さらに、世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルスによるコロナ禍では社長はじめ各社のCOOと執行部の皆さんは大変苦労しましたが、グループ全社の労使一体の頑張りのおかげで、経常利益100億円超えを2年連続で達成して全社員に特別賞与を支給できたことは大きな喜びでした。
昨年、社会を明るくしてくれたのは、ロサンゼルス・ドジャースの大谷さんのデコピンでした。始球式を立派にやり遂げただけでなく、大谷さんとハイタッチしたことには驚きました。世界的なスポーツの祭典であるパリオリンピックやパラリンピックでの選手たちの活躍、地元岡山のプロサッカークラブであるファジアーノ岡山が悲願のJ1昇格を果たした快挙、そして今年の1月末からは高橋大輔さんをはじめとする世界的なフィギュアスケーターを生み出した岡山と倉敷のスケートリンクで第79回国民スポーツ大会冬季大会のスケート競技会が開催されるなど、明るい話題が多く、やる気を引き出してくれます。
もう一つ日本人が自信を持てる映画がフィンランドやフランスで公開され、大きな反響を呼びました。その映画は山崎エマ監督の「小学校~それは小さな社会~」です。イギリス人の父と日本人の母に育ち、小学校は日本で、中高はインターナショナルスクール、大学はアメリカで過ごしましたが、外国の人に「良く頑張りますね」「時間通りに来ますね」「チームワークが得意ですね」と言われる自分が、小学生の時代で日本人になったと感じて作られたドキュメンタリー映画です。日本人には当たり前の「靴を揃えて下駄箱に入れる」こと、「給食の時にみんなで手伝う」こと、「運動会で規律正しく整列する」こと、そんな当たり前の小学校の日常の生活と教育で日本人の「規律」と「協調性」が生まれることに気がついて創られた映画です。教育先進国のフィンランドで上演されるや、「自由」と「個性」を重んじすぎて社会的な規律や協調性の欠如が社会の問題となっていただけに驚きをもって大きな反響となり、教育方針を変えようという動きが出てきています。
そして6年生の卒業の時には担任の先生が卵の殻の模型を頭にぶつけて、「これからは自分の殻を破ってください」と言って、小学生時代には社会人として大事な「規律」という「協調性」という基礎を学び社会性を身に着けた上で、中学生からは自分の殻を破って「自由」や「個性」を磨くように導いていることは素晴らしいことであり、この日本の小学校の教育の世界からの賞賛に、日本人として誇りを感じました。
路線バス事業に公設民営の動き!
地域公共交通をヨーロッパ型の公設民営にし、いつまでたっても赤字事業から脱却できないビジネスモデルを経営努力によって黒字化できるビジネスモデルに変革することに努力しています。
津エアポートラインでの公設民営の実証実験に続き、和歌山電鐵でも公設民営の再建が実証され、鉄道部門では公有民営が国で制度化されました。しかしバス部門ではなかなか公設民営が進みませんでした。一つのモデルとして井笠鐡道が破綻した後のバス事業を公設民託で再建し、コロナ禍でもわずかに黒字経営を達成しましたが、全国的に前に進みませんでした。ところが昨年、岡山市での法定協議会でバスの「支線」で公設民営が実証される方向性が決まり、やっと一歩を踏み出しました。
昨年の経営方針は、
より良く働き、より良く生きる
AI、IoT、ロボット化で生産性アップ
でした。
コロナ禍が収束へ向かって一転、交通運輸事業やサービス業で極端な人材不足に加えて2024年問題という労働時間短縮などの改正が輪をかけて顕在化し、まさに「より良く働き、より良く生きる」ことが問われる一年となりました。「社員の幸せ」が経営方針の一つである両備グループにとっては、各職場で頑張って取り組んでくれました。いかに生産性をあげて、この目標を達成するかが21世紀の両備グループにとっては乗り越えていかなければならない課題です。
日本は今まで「ガンバリズム」で経済の発展を創りあげてきましたが、今後はこの「ガンバリズム」も忘れてはいけませんが、これだけでは個々人の生産性は上がりません。「AI、IoT、ロボット化」で合理的に生産性アップを図らなければなりませんが、その前提として「社員の幸せ=健康×能力×やる気+夢」がキーとなります。社員のスキルアップ、モラルアップが「AI、IoT、ロボット化」を活かすも殺すも、先ずは健康と能力アップをやる気と夢を持ちながら達成していくことが肝要なのです。
2025年経営方針
一所懸命
1 輝け忠恕と安全性
2 磨け自身と生産性
としました。
コロナ禍では「集まりにくい」「移動しにくい」「積極的に動けない」「時を待つ」など、今まで自由に移動し、自由に活動していた社会が一転しました。不活性な社会に3年もの間、ドップリと浸かってしまい、「一所懸命に働く姿」が失われてきたのではないか…と懸念しています。
世の中が流動化すると人の心も流動化するのか、「苦しくても頑張って山を越える」気概が薄まり、パワハラやセクハラは絶対にあってはなりませんが、拡大解釈での「パワハラだ」「セクハラだ」と騒ぎ、折角これからだというところで仕事を変えてしまったり、上司が指導を弱めてしまうケースが気になります。両備グループは正社員主義で基本が「能力主義的安心雇用」ですから、「一所懸命」に頑張ってくれていることが今日の両備グループを支えてくれていると思います。両備は時代の風潮に流されず「忠恕」を経営理念として中長期の「社員の幸せ」を目標としていますが、この「忠恕の精神」で高品質な事業展開をするには職場で人がたびたび変わったのでは一流になれません。そして、どこの職場でも一流を目指し「一所懸命」努力してキャリアアップしていただくことが「自分自身の幸せ」となっていけるように「正直者が得をする」会社へとオペレーションしていきます。
日本が働きすぎは間違い …「働かない改革」から「働きたい改革」へ
日本が欧米と比較して「働きすぎ」と自虐し、どんどん働く時間が縮小しています。労働時間ではOECD38カ国中22位で、なんと9位のアメリカより約190時間も少なく、生産性も29位と最も低い国の部類となってきています。
日本の資源は「人」であるのに、働くことが悪いような社会風潮が醸成され、「働き方改革」も大事ですが、結果として「働かない改革」になっているのでは?と懸念しています。今すぐに目を覚まして「働きたい改革」をしていかないと、これからの少子高齢化社会で「働けない」社会を創れば、この国はどうなるのか、考えないでも分かると思います。GDPがドイツに抜かれ、一人当たりのGDPも韓国にも抜かれ、台湾が日本を抜きかけている現実は、為替の問題と言い訳することはできません。「稼ぐに追いつく貧乏なし」です。目を覚ませニッポン!
生産性向上はアイドルタイムの解消がキー
しかし、法は法で、どのように解決するかです。私が旧両備運輸の社長時代に管理部門で8時間の勤務時間のうち本当に働いていた時間を調べたら4時間でした。後の4時間は手待ち・指示待ちや何となくボーっとしているアイドルタイムでした。その時、両備システムズでも調べてもらったら、ほとんど同じ実態でした。アイドルタイムの4時間のうち全てびっしり働くのは人間では無理なので、2時間を工夫して「ムリ・ムダ・ムラ」を改善し、実のある働く時間を6時間にすれば生産性は1.5倍になります。「工夫とやる気」に加えてAIやロボット化、DXを上手く活用して「働きたい改革」をしていくことがソリューションのひとつでしょう。
生産性向上が難しいのは製造や交通の現業部門ですが、例えば乗務社員の皆さんの場合、点呼・点検・出庫・運行・洗車等や終業報告という業務フローにおいて、「運行の時間を多くできるように」点呼や点検の効率化や洗車を専門職に移管するなどの思い切った施策が大事です。物流では自動化やトレーラー化、路線バスではタクシー会社や協力会社への委託など将来を見越した対策が必要でしょう。
コロナ禍で大企業病になっていないか?
コロナ禍でもてはやされた「リモートワーク」も本当に機能しているのか、フロア効率を上げる「フリーアドレス」の社員配置も本来、営業など席についている時間が少ない職種には貢献できますが、毎日デスクワークする部署ではバラバラになって却って集まるために会議をする。その会議が効率UPや真の意味のコミュニケーションの妨げとなっていないか、直ぐに動かず「早い決断」ができず、些細なことも会議を待って決するような大企業病に陥っていないか等々を業種、職種によって大いに異なるので、もう一度検証しなおさなければなりません。良いことは残し、改めるべきことはここで検証して改善しましょう。
行動規範を「やり切る」に変更
社長の昨年のスローガンの「やり切る」は、社員に浸透して素晴らしい効果を見せているので、今年から「両備グループの行動規範」の「出来るまでやる」を入れ替えて「すぐやる、必ずやる、やり切る」へ変更しました。実は、コロナ禍後で最も気になることが、この「すぐやる」なのです。
両備グループが近年成長する力が発揮できたのは「一所懸命」に「すぐやる」社員の皆さんのおかげなのです。ベトナムに進出する際に、現地調査でアジアの経営者と懇談する機会を設けて勉強していました。こちらが会長であると先方も会長が出てきます。商談の話になって、もし「日本に帰って検討します」と答えると、「すぐ決断できない日本人が『検討する』と答えるのは、やらないということですね」と言って、もう二度と会ってくれません。意思決定できる立場の日本の会社幹部が「決断できないケントウシ」と海外で見られていて、ハッとして気がつきました。それ以来、両備の判断スピードが海外企業並みになったことが企業進出、企業提携、不動産売買などで効果を出してきたのです。行動規範で「即断即決・三日の原則」と言っていますが、企業成長に極めて大事なポリシーなのです。
1 輝け忠恕と安全性
両備グループが最も評価されていることは業績もありますが、そのバックにある社員の皆さんの「思いやりのある行動」と「社風」なのです。「両備さんなら間違いない」「両備さんなら信頼できる」、また「両備の社員は皆、礼儀正しく優しい」「丁寧にお客様のことを考えてくれる」という信頼と安心感こそが宝です。その信頼感を支えてくれるのが安心・安全であり、両備グループ全社社員の輝きになっていくことで、更に両備グループを社会が育ててくれます。
乗務社員の皆さんも相手に譲る思いやりの運転で、もう一度「優しさの運転3原則」を心に刻んで、「安全を運転」してください。
①粗い運転→優しい運転
②粗い言葉→優しい言葉
③粗い接客→優しい接客磨け自身と生産性
2 磨け自身と生産性
皆さんが21世紀を生き抜くには、20世紀型のガンバリズムだけでは駄目だと言いましたが、AIやロボットが現れて単純労働や事務仕事も今後はどんどんロボットなどに置き換わるでしょう。
21世紀に最も失われるものが「人の心」で、経済原則では供給が少ない稀少性こそが価値となるので、失われていく人の心こそが価値を生み出していくと思います。それを見越して両備グループは経営理念を「忠恕」として、人間だけがもてる思いやりをベースに、皆さんのスキルが変わり、次代で幸せになれるように「社員の幸せの方程式(社員の幸せ=健康×能力×やる気+夢)」としたのです。
その能力アップには3つの実行をお願いします。
①何でもやるという「マルチタスク」の実践
②業務の資格アップ・スキルアップに挑戦
③肩書で仕事をするのではなく、「現場第一」に実力で仕事をする
両備グループは社員が一生ちゃんと幸せに暮らせるように原則的に正社員制度をとり、家庭を持ち、子育てもできる働く環境を目指して社会が再生産できるように配慮しています。我々の仕事は人が財産であり、人がお客様であり、人がいなければ社会は成り立たないのです。そのお客様に心から思いやりを持ってお客様第一で、人間しかできない付加価値の高い仕事に転換することを求めていきます。
両備グループの幹部養成の教育システムとして青年重役制度(JB制度)やアンダー30(U30)、アンダー25(U25)にはICT系の若者がどんどん入って、両備グループならではの研修をしています。世界でもこれだけ異業種の企業があるグループは珍しく、その上、ICT部門がありますから、両者が良い意味で化学反応して素晴らしい提案や活動が生まれてきています。QC活動とも相まって、いわゆるDXにもつながっていくでしょう。
能力主義的安心雇用の更なる進化を
創立100周年の時に皆さんに「これからの日本は国が国民を健康保険や介護保険、年金で支えていくことは難しい国となり、70歳以上も働かなくてはならない社会になる」だろうと言いましたが、今の年功序列型の「年齢が上がれば給料が上がる賃金システム」も早晩崩れると見越して両備グループでは21世紀には「能力主義的安心雇用」になるようにオペレーションしています。
これからは年功に比例した肩書や身分による給与でなく、「能力」で処遇するように切り替えが必要です。私が30年前に提唱した「能力主義的安心雇用」は旧両備運輸で実証実験済みです。旧両備運輸は年功給の一部を能力給に切り替えることで、一旦はバブルの崩壊で潰れそうになった会社の立て直しを図り、両備バスと対等合併できるまでに成長して現在の両備ホールディングスができたのです。そこで、両備ホールディングスになった時に過去の年功序列型の係長、課長、部長という呼称を廃し、能力による横文字の肩書に変えました。基本はプロジェクトチームのようにリーダーとサブリーダー、事務局にスタッフが加わる、単純明快で意思決定の早い組織を創っていかなくてはならないのです。
しかし、両備グループでもこの「能力主義的安心雇用」があまり理解できず、なかなか進んでいませんが、これからの少子高齢化時代と「人生90年、100年時代」には年齢に関係なく、出来る者がリーダーに、若ければよい、歳をとったら若手にという硬直した考え方ではなく、若くても老齢でも最もリーダーに相応しく結果が出せる人がリーダーになっていくことが肝要なのです。
労働分配率は業種によって違いますが、仮に50%とすると、年収1,000万円の収入を得たい社員は2,000万円の利益を上げれば良いのですし、年収300万円で良い人は600万円の利益を上げれば良いのです。これが本来の「働き方改革」であり、労働時間で幾らというのは本質が異なるのです。
コロナ禍を乗り越え、経常利益100億円台の企業体質に
コロナ禍で特に苦しんだ公共交通部門を支えてくれたICT部門もコロナ特需が一段落してきましたが、コロナ禍での経営努力で経営効率が高まりました。また、まちづくり部門や地域づくり部門も頑張って、100億円前後の利益が出せる体質になってきました。最も苦労した公共交通や観光部門も人流は戻ってきたものの、10%~20%減少した状況の上、一転、人手不足に襲われるようになりましたが、人手不足には思い切った「宇宙一本気(マジ)な採用PJT」や岡山電気軌道での「二刀流乗務社員募集」で世間がアッと驚く効果を発揮し、人材の確保と業績の回復に努めています。回復が遅いフェリーユニットも管理力、営業力の確保にトランスポートユニットと一体になり、人材の交流による新たな飛躍を図っていますし、神戸ベイクルーズは年間利用客20万人を達成しました。トランスポートユニットは早島(岡山県早島町)の5,000坪倉庫の稼働やベトナムに3棟目の自社倉庫を竣工し、内外に気を吐いています。タクシーユニットは酒米の雄町タクシーやワンセト記念タクシーなど楽しいタクシーを次々と投入して人気ですし、ICT部門はコロナ特需景気から上手く軟着陸し、自治体システムの標準化など新たな発展へ向かって東京本社の新オフィスへの移転や豊成社屋の新築を計画しているほか、早期胃がん深達度メディカルAIが国内初の「医療機器製造販売」の承認を受け、シンクは自治体システム標準化に成功しています。STARユニットは礎コラムと藤倉工務店が両備グループ入りして大いに飛躍、夢二郷土美術館とトーキョー・リョービは夢二生誕140年でグッズが好調です。サルボ両備は福山サービスエリア上り線が西日本での評価で1位となり、両備テクノモビリティーもモノタロウのアシスト台車部門で1位となるなど気炎を上げています。
災い転じて福となす
「災い転じて福となす」ではありませんが、コロナ禍での苦労の経験で両備グループが一皮むけて強い組織として脱皮できたと思います。
いかに自分を磨いて「人には真似できない自分の魅力」をどう創っていくか、自分の望ましい付加価値を達成して生産性をあげるかが今後の皆さんの課題ですし、どう育てるかが両備グループ各社のCOOと幹部の使命です。
失われた30年と言いますが、失われたのは夢に向かって「一所懸命に取り組む日本人の心」ではないかと思っています。
どうやって素晴らしい人生にするかは、人が与えてくれるものではなく、自分自身を磨き、輝くスキルで自分の力で勝ち取っていくものなのです。まさに水前寺清子さんが「365歩のマーチ」で、「幸せは歩いて来ない、だ~から歩いてゆくんだよ~♪」と歌っていますが、そうなんです、幸せはこちらから歩いていかなければならないのです。両備グループは「社員の幸せ」が経営方針で、皆さんの幸せを求めていく人生の旅をお手伝いします。
皆さん、「一所懸命」に頑張って幸せな人生を歩みましょう!