Message代表メッセージ

2008.02.06

規制緩和の功罪が分かる、中鉄バスと岡山電気軌道との共同運行秘話と提言

両備グループ代表  
小嶋光信

規制緩和で、県北への郊外バスが主であった中鉄バスが長年の悲願であった岡山市内南部に路線新設するという「南下政策」に端を発した中鉄と岡山電気軌道の路線争奪戦は、岡山空港リムジンバスや免許センター線、神戸への高速線と紛争が広がり、一年に何回も運行ダイヤが変わるというクリームスキミングを生み、乗り場の問題も含めお客様に分かりづらい業者間の競争に発展しました。

岡山県のバス業界は、戦時統合が終戦で流れたため、岡山市内にバス会社が5社以上存在するという激戦地帯で、全国でも稀な地域でした。
しかし悪いことばかりでなく、そのために経営努力が進んで、旧来の補助金時代には補助金を貰わずに黒字の企業が3~4社あり、これまた全国で稀にみる経営実態の強い企業力を生みました。

ところが、平成14年に実施された規制緩和後、2社の競争は、顧客利便にはあまりつながらず、黒字路線への同時間帯運行による過密ダイヤを生み、時刻表が再三変わり、乗り場も同方面でありながら離れていて分かりづらく、お客様不在の戦いになってしまいました。

守りの岡電は攻めに回るとかなり強く、次から次へと中鉄の数少ない収益路線に進出して戦略的に優位に立っていましたが、私の心は晴れませんでした。
何とか不毛な体力勝負を改善しようと努力していましたが、経営部門ばかりでなく、両社の運転手さんまでが険悪になり、このまま放置すれば社会悪となる懸念を感じていたからです。
経営方針である「社会正義」にも、「お客様第一」にも、「社員の幸せ」にもつながらない、滅び行く地方バス業界の無意味な紛争としか思えませんでした。

思いというのは不思議なもので、平成18年の9月、私が歩いて出社している時、偶然散歩している中鉄バスの藤田社長を見かけました。
藤田社長に「一度ゆっくり話しませんか」と話しかけたら、「近々お伺いします」ということで会談の約束ができました。
会って話をすると、お互い経営者同士ですから、過去の恨み辛みはありますが、

  1. お客様利便のためにお互い努力しましょう。
  2. 岡山県はバス会社が多すぎ、それがバラバラに運行しているので、何らかのコラボレーションをして、バスネットワークをちゃんと造りましょう。
  3. 現在の規制緩和では、地方バス路線が健全に維持できないので、業界正常化にお互い努力しましょう。

などと大いに話が盛り上がり、バス事業とお客様に対する思いはほとんど一緒であることが確認でき、私の方から、次回お互いの不毛な紛争を回避して、お客様に向かって分かりやすい、利用しやすい和解案を提示することをお約束して別れました。

翌月、岡山空港リムジンバスを共同運行し、市内の南部、北部に路線を整理する案を提示したところ、快諾を得ることが出来ました。
現場ではまだわだかまりがあって、疑心暗鬼の面がありましたが、トップ同士が揺らがなかったので、平成19年1月1日に空港リムジンの共同運行と南北の路線整理がスタートしました。

私は、半年間お互いの信頼関係が築けるか現場の様子を見ていましたが、これがあれだけ小競り合いした現場かと思うくらいスムーズに事が進んだので、昨7月11日に藤田社長に会談の申し入れをして、お互いの輻輳する53号線の天満屋バスステーションを起点とする津高営業所、半田山、国立病院、免許センターの4路線の共同運行化と、180号線を中鉄路線に一本化することを提案しました。

一方でご当局が中心になって岡山駅構内の方面別による乗り場を一本化するご提案がありました。
内容は短絡的にただ会社の違う、同じような方向に走るバスを同じ乗り場から出せば良いというご意見でしたが、それではダイヤの調整が出来ずに、同じ時間帯に乗り場にバスが重なり捌(さば)けず、混乱が生じ、安全にも支障が出ることをあまりご存じでなかったようです。
また同じ方向に走っていても、市内バスと郊外バスは最終到着地が違うので、方面別といっても同じ乗り場での調整が難しいのが実態です。

従って、どうしても共同運行化し、お互いが自主的に便数や時間を譲り合わなければ、方面別が結果として顧客利便には繋がらないので、今回の共同運行化を急いだのです。

話し合いの後、基本的な気持ちは同一であることを再確認でき、昨8月15日に最終案を藤田社長に提示しました。
今回は少し回答に時間がかかりましたが、昨11月14日にトップ会談での最終合意をみて、現場の話し合いで実務的な問題を整理して、この2月6日に無事調印式を済ませました。

藤田社長も私も、お互い晴れ晴れとした気持ちで、調印が出来ました。実施は7月1日が目標です。
これで中鉄バスとの懸案事項は全て解決しますので、次は本年中に両備グループの両備バスと岡電バスとの路線再編をすれば、岡山市を中心としたバス路線は極一部を除いてネットワーク化と効率化が共に達成され、お客様に分かりやすい体制になると思います。
そして、今後は如何に公共交通の利用促進と環境問題の解決とをパラレルに進め、利用客を増やすことが課題になります。
ちなみに、今回の共同運行で、同じ時間の無駄な便数を調整すれば約500トンの二酸化炭素の排出を抑制できます。

今回の不毛な競争で分かったこと

規制緩和の本来目指したものは、正常な競争で、運賃やサービスの改善や、路線や運行回数の増加などの効果ですが、現実は岡山県では16%以上の路線が消え、過当競争を誘発して、企業運営を危うくしただけに終わってしまいました。
これはタクシー業界も同じで、供給過剰で運収があがらず、生活がやっとという状況の地域に増車を生み、不法駐車で街の混乱に拍車がかかり、劣悪なサービスの業者の参入で業界全体の信頼すら揺らぎかねない状態を引き起こしました。
また、多くの地方鉄道は廃止を余儀なくされ、移動手段のない限界集落を生み、地方の活力をそぎ落とすだけでした。

本来規制緩和は、規制によって供給力を制限され、あぐらをかいている業界に規制を緩和することで競争を生み、価格やサービスの向上で消費者有利に進められるべきものです。
従って、供給より需要が多いということが前提ですが、公共交通の規制緩和は誰がミスリードしたのか、首都圏の状況を日本全体と勘違いしたのか、はるかに需要の少ない、供給力を確保しなければならない地域と業界に致命傷を与えて、地方の衰退に拍車をかけたとしかいえません。
規制緩和という理想論に酔ったのか、首都圏だけを必要な日本と曲解したのか、国を危うくする大失策です。
中央の審議会は、少なくとも学者や有識者は中央、地方半々の委員で構成しなくては、今後も大間違いをすることになるでしょう。

その上、貸切事業免許によるツアーバスという路線バス事業まがいの高速バスの安売りを、法の不備を突かれて認めたことで、安全・安心までも揺らぐ結果になりました。今後、法の整備をせず、これを安全問題だけにすり替えると、さらに混乱に拍車をかけるでしょう。

我々の使命は、安全・安心の地方公共交通を、将来絶対必要になる超高齢社会まで、きちんと保持して次に伝えることです。
公共交通は損得だけで考えるものではありません。
儲かっても、儲からなくても、地域として確保しなくてはならない交通手段で、いわば地域の福祉です。

今までは道路を作れば、そこに車が走って国民の利便が向上したのですが、高齢社会では自分で車を運転できません。
動く歩道を全部つけるわけもいかず、必然的にバスや鉄道が「動く歩道」代わりに必要になるのです。
「韓国バス事情」(2007年10月)でもお話しましたが、日本は財政が苦しくなり、貧すればドンするで、多くの責任を民間に押しつけて、蛇の生殺しみたいに地方を足のない不便な地にして、衰退の一途をたどるのではと懸念しています。
幸い新年度にはバス事業者の経営努力を認めた先進的補助金制度に改良されますが、これとともに、公共交通の公的整備と民間の経営努力による効率化を更に進めなくてはなりません。

地方公共交通への提言

国民に安心・安全で信頼できる地方の公共交通ネットワークを維持するためには、

  1. 21世紀地方公共交通再生プランの提言
    高齢社会の交通福祉政策と環境への配慮を目的として、地方の公共交通の再構築を図るために、TDM(交通需要政策)の一環として、「公有民営」方式で、天然液化ガス使用のバリアフリータイプのバスやLRTと鉄道などを整備し、ITとGPSを利用した地方公共交通マネージメントシステム(仮称)を投入して、有機的ネットワークとして地方公共交通を「見える化」する。予算規模、財源は道路特定財源を利用し、毎年2~3,000億円規模の10年計画で、世界最高水準の公共交通ネットワークを目指す。
  2. 新たに地方道路・交通審議会を提言
    審議会を首都圏と切り離して、地方独自の道路、交通を連携的に審議する地方出身国会議員と地方の学者と有識者の会を新設して、魅力ある地方造りをする。
  3. 公共交通とマイカーの共生プランの提言
    世界に日本が環境問題を積極的に取り組むアピールも含め、都市への通勤・通学は原則マイカーと共生するパーク&ライドを制度化し、都市へはバス専用道路やLRTを利用するという「歩いて楽しいまちづくり」を実践し、中心市街地の活性化と都市環境の良化と、交通事故の減少を図る。財源の多くは、ソウルやロンドンで導入して成功している都市に3人未満で進入する自家用車とバスレーンの駐車違反と通行妨害の罰金で、ロードプライシングする。

閉塞感いっぱいで将来の見えない現状打破のために、思い切った政策で、日本のため、地域のため、未来を担う若者のためにも、地方の足を確保するように頑張らなくてはなりません。

両備グループ

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