夢二生誕140年記念展が郷里の岡山で開催!

夢二郷土美術館

館長 小嶋光信

今年6月から夢二生誕140年を記念した巡回展が東京都庭園美術館を皮切りとして開催されていましたが、いよいよ夢二の生誕月でもある9月7日から12月8日の会期で岡山の夢二郷土美術館 本館を主会場、サテライト会場として瀬戸内市にある夢二生家記念館と少年山荘で開催されています。

今展は、「大正浪漫と新しい世界」をテーマに岡山出身の大正浪漫を代表する芸術家・竹久夢二(1884-1934)の最新の研究に基づく新たな視点からその生涯をたどる「YUMEJI展」となっています。

巡回展のスタートを切った東京都庭園美術館(会期:6月1日~8月25日)での展覧会は、これまで数多くの夢二展を開催してきた私も本当に感激しました。旧朝香宮邸の建物や醸し出す風情等は、主要な部屋の設計をアール・デコ様式でフランスの装飾芸術家のアンリ・ラパンが担当し、正面玄関のガラスの女神像やシャンデリア等はフランスのガラス工芸家のルネ・ラリックの作品で夢二と同時代の邸宅を美術館としており、大正浪漫の旗手でもあった夢二展が開かれる会場として相応しく、また朝香宮様のお姫様が夢二のファンで自室に作品を飾られていたというご縁も相まって素晴らしい雰囲気に包まれた記念展となりました。

さて、郷土・岡山で開催する夢二展は東京に勝るとも劣らないように工夫しなくてはなりません。そのキーワードは「ふるさと」です。夢二芸術の原点は、生まれ故郷の岡山県邑久郡(瀬戸内市)で、優しいお母さんやお姉さんに可愛がられて育ち、楽しくて幸福な少年時代を過ごした数々の思い出であり夢二の心の詩や夢二式美人の大きなファクターになっていると思います。

「夢二生家記念館」では、嫁いでいく姉を慕って子ども部屋の窓の柱に自分と姉の名を鏡文字で並べて墨書した文字や、夢二が自ら設計した生涯唯一のマイホームである「少年山荘」で夢二作品に触れると何となく夢二の心の奥底にある夢二芸術の源流に触れたような思いがしてきます。

また、夢二郷土美術館の所蔵作品の特長は、詩や絵画だけでなく、雑誌や楽譜の表紙、本の装幀、浴衣や半襟をはじめとする日用品などのデザインとあらゆる分野に取り組み、時代を切り拓くマルチアーティストであった夢二を彼の生涯を通じて幅広く感じていただける約3,000点の作品を収蔵していることです。今回は貴重なコレクション作品に岡山展でのみ初公開する新収蔵作品を加えた選りすぐりの約270点を展示いたします。

特に、夢二が描いた油彩画は現存する作品数が約30点と少ないのですが、そのうち13点を当館が所蔵しており、今展では長らく所在が不明で80年の時を経て発見された名画《アマリリス》、夢二晩年の滞米中に描かれた油彩画《西海岸の裸婦》などの新収蔵作品を含めた大変貴重な油彩画13点を展示し、油彩画家としての夢二に焦点をあてます。また、夢二の最期を看取った医師であり、友人の正木不如丘(まさきふじょきゅう)さんに遺した外遊スケッチも初公開する他、岡山展限定での初公開となる裸婦のスケッチ画などもご覧いただけます。

一般公開初日の9月7日から10月末までの土曜日限定で「夢二黑の助バス」で巡る解説付きの特別鑑賞券の企画や、今展を監修してくださった帝京大学名誉教授の岡部昌幸氏の特別講演会「ARTIST夢二からの贈り物―新発見、新収蔵の作品が明らかにする芸術家の魅力」も行われ、夢二作品の魅力が一層よく皆さんに伝わったと感謝しています。

さらに、岡山ならでは!の趣向として、岡山電気軌道ではアートラッピング電車の「KURO✕YUMEJI」を水戸岡鋭治さんのデザインで生誕140年記念「Nostalgic Art Tram」としてリニューアルし、今年4月から市内を運行しています。また今回、新たなる取り組みとしては、夢二が作詩した「宵待草」のメロディーが電車のドア開閉時に車内外で流れるようにして大正浪漫を満喫していただけるよう工夫しました。クラッシック車両で冷房がないため、夏の期間は一時運休していましたが、いよいよこの10月中旬から運行再開しますので乞うご期待です。

また夢二の生誕日である9月16日には、世界で活躍する彫刻家の名和晃平氏、国立の美術館で初となる夢二展「川西コレクション収蔵記念展 夢二とともに」(京都国立近代美術館)を手掛けた和歌山県立近代美術館館長の山野英嗣氏をお迎えし、一日限りのスペシャルトークイベント「竹久夢二生誕140年記念『生誕日トークイベントin 杜の街グレース~新たな視点でとらえる夢二~』」を開催します。

「夢二はいつの時代にも新しい!」…夢二について次々と新しい発見が生まれてきます。時代を超えて愛され、没後90年を経た今もなお多くの人々を惹きつけてやまない夢二の世界を夢二が終生懐かしんで愛した故郷・岡山で満喫していただければ幸いです。