(一財)地域公共交通総合研究所 理事長
小嶋光信
地域公共交通活性化再生法(正式名称:地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律)が平成26年11月に改正となり、平成32年度までの交通政策基本計画もこの春閣議決定され、いよいよ本格的に地域公共交通網形成計画、地域公共交通再編実施計画も全国的に動き始めた。
しかし、日本では今まで、公共交通は民間会社がやるものということが常識であり、そのノウハウの蓄積は、個々の民間企業にはあるが、地方公共団体には補助金を通しての公共交通の理解以外はほとんどノウハウもスキルもないのが現状と言って良いだろう。
日本以外の先進諸国(特にヨーロッパ)では移動権も含め、「公設民営」が主な公共交通として維持発展してきたが、今、日本はまさにその後追いをしていかなければならないと言える。
行政側に、急にこの地域公共交通網形成計画や再編実施計画を作れと言っても、
- ノウハウやスキルの蓄積がない。
- 人材・組織の新たな構築が必要。
- それらを遂行する財源の確保が必要。
という問題に直面していると言える。
もちろん、計画にはコンサルなどの協力が必要になるであろうが、地域公共交通専門のコンサルは、現在、国内には実業を行っている者たちが研究員を務める当総研以外に無いと思われ、現場の問題解決へ向けてのセミナーを毎年開催し、それが少しでも地方行政の執務上の参考、また事業者側も今までの孤軍奮闘型から運命共同体として如何なる対応や意識改革、協力体制が必要か等々些かでも皆さんの参考になればと願っている。
「国土のグランドデザイン2050」で示されているように、2050年には居住地域の6割以上の地点で人口が半減、うち2割が無居住化という地域消滅の危機があると言われている。35年後なのでまだ先だと思うか、たった35年しかないと思うかということだが、むしろしっかり把握しておかなくてはならないのは、牛の涎の例えのごとく35年間ダラダラと多くの地域で人口が減り、弱っていくということに耐えられるかだ。“蛇の生殺し”と言うが、まさに日本の地域が生殺しのような様相と言える。
これらの対応として地方創生やコンパクト+ネットワークが叫ばれている。本来のコンパクトは持続的に発展する地域を意味しているが、日本の場合は人口が減少する地域を中心的都市に吸収していくというような意味合いが強い。そして地域の求心力が高い、サービスの行き届いた地域にネットワークを張り巡らして、これらの人口縮小、地域衰退に対処していこうと考えられている。
ということは、このネットワークとしての公共交通、生活交通の在り方が地域の結びつきを創る「大きなキーになった」という理解が必要であり、今回のセミナーの活況はその裏付けと言っても良いだろう。
別途、総研のHPに、
- 海谷厚志交通計画課長(国交省 公共交通政策部)の基調講演「地域公共交通活性化再生法をめぐる状況について」
- 話題提供の藤原広島大学大学院教授、加藤名古屋大学大学院准教授の実践的問題
- パネルディスカッションでの、我々総研が鉄道かBRTかで存続の危ぶまれた近鉄内部・八王子線を鉄道で存続することや、再生へ向けての方策等を指南した「四日市あすなろう鉄道」とそのための四日市市地域公共交通網形成計画に取り組まれた四日市市都市整備部の山本理事の発表。大阪大学コミュニケーションデザイン・センター土井特任教授の発表に続いて、東京大学学院の家田教授、鎌田教授に国交省中国運輸局の中井交通政策部長にも加わっていただき、事前に寄せられていた質問に答える形式で進めた質疑応答等
シンポジウムの内容を掲載するので、参考にしていただきたい。
これからの「地域生き残り」の肝は、地域の経営ができるサイズに連携・連合し、それらの広域地域的・有機的な公共交通のネットワークを創り、住民が誇れる地域を如何につくるかにかかっている。