「公共交通経営者円卓会議2023」共同提言

公共交通経営者円卓会議2023
議長 小嶋光信、メンバー一同

この共同提言は、全国各地で公共交通のリーダー的な活躍をされている8氏、九州地区から熊本都市バスの高田普社長、西日本鉄道の松本義人常務、四国地区から伊予鉄グループの清水一郎社長、中国地区から広島電鉄の仮井康裕専務、関東・東北地区からみちのりホールディングスの松本順CEO、ヤマコーの平井康博社長、北海道地区から北海道中央バスの平尾一彌会長と両備グループ代表小嶋光信が、現場の経営者としてコロナ禍の人流制限解除後を踏まえて、今後地域公共交通の維持を図るために自助、共助、公助の観点から何をしなければならないかを議論し発表するものである。地域公共交通の再構築の一助になれば幸いである。

A.コロナ禍における現状認識

1.公共交通である乗合事業は近年、地方では赤字が常態化した事業のうえにコロナ禍で、鉄軌道、バス事業(乗合・貸切)、旅客船の減収は業界がかつて経験したことのない甚大なものとなり、経営の体を全く成さない状況となっている。これまでの経営のあり方では事業の持続・継続が困難なほど計り知れない多大な損害を受けている。

2.バス利用者がコロナ禍前の1~2割は減少するという厳しい見方が共通認識となっている。

3.「ビジネスモデルが赤字化した経営の壁」と「人手不足」という深刻な問題で今後の経営維持が見通せない。

4.現行の制度では、乗合バスを中心とする公共交通は人にも設備にも投資が進まず縮小する一方となり公共交通が不便になる。その結果、利用者が減少してますます公共交通が不便となり住み難い地域となる。不便な地域から住民が出ていくことで地域の衰退を招くという悪循環は止まらないだろう。

かかる認識の上に利用者の利益を支える交通事業の再構築として下記を提言する。

B.提言

1.運賃制度の見直しが急務といえる

運賃の決定は「総括原価方式」により計算されるが、実際の赤字額とこの算定額に大きな開きがあり、実態の原価を反映するように運賃認可制度の見直しが必要といえる。

キロコストの安い郊外バスがキロコストの高い市内バスに低運賃で競合し、市内バスの経営を圧迫していることの是正が必要と言える。

2.交付税や補助金の在り方を大幅に変更せねば、地域公共交通は維持できない

①地域公共交通特別交付税は、「バス交通特別交付税」のように自治体に交付された金額がそのままバス事業者の支援に直接行き届く仕組みが必要だ。

現状の補助金制度では赤字路線の維持はできないので、必要経費を償えるとともに設備投資や人件費アップが出来るように利益を認めるように改革が必要

3.人手不足は深刻で、2024年問題もあり早急な改善をしないと路線維持ができない

早急に待遇改善を図るべきだ

乗合バスに外国人労働者の乗務を許可する時期に来た

過疎地帯では乗合バス会社に一種免許所持者の登用

2024年の労働基準改革(働き方改革)によって運転手不足がますます深刻になり対策が必要

4.環境問題やDXへの取組が急務と言える

①カーボンニュートラル推進のためにも、EV車両導入と共に、少子化と増大する高齢者の利用を含めて公共交通の利用促進を国をあげて行う必要がある。

②市内バスと郊外から都心部に直接乗り入れるバスが重複して運行している地域では、輸送力が過剰となっており、効率的な運行便数にすることは経営上も環境問題からも急務

環境とSDGsの観点から公務員が率先して公共交通機関を利用していくことも必要

キャシュレス化や共通化とDX化が必要である。

5.安全対策には経営の安定と人材の養成が必要である

運行管理者制度を更新制にする必要がある

②運行管理が全くできていない、貸切バスの国の定めた運賃体系を守らないような一部の悪質なバス事業者が市場から確実に退出する制度が必要である。

6.制度改革と新たな行政支援が必要である

①現行の制度では地域公共交通であるバスも地方鉄道も事業継続はできず、公有民営や公有民託やエリア一括協定運行などの新制度の充実が不可避である。

②地域でのサステナブルな公共交通事業の維持には、交通事業者間の連携強化と行政との緊密な関係構築による交通政策の展開は不可欠といえる。

通学定期への行政補助の創設が必要である

④利用促進と道路混雑解消へむけて行政が中心となり、ナンバープレート制などのTDM施策やMM(モビリティーマネージメント)策をあわせて実施してほしい

C.結論:競争から協調へ

1.公共交通維持のためには、現行制度では無理であり、現在の赤字補填というシステムからの脱却を図り、競争中心の運送法や制度そのものを変更して「協調」出来る制度設計が必要と言える。 

2.ヨーロッパの公設民営を参考に「日本型公設民営」(固定資産税減免やリースの活用などを活用)として日本の民営の良さを活かしていきたい。

3.公共交通を地域のインフラ整備と位置付け、地域住民が利用しやすい運賃体系にしていく必要がある。

4.交通財源の明確化が必要。地域公共交通の各論は、まちづくりと一体で考えるべきであり、地域ごとに状況が異なり政策も異なるため「権限と財源のセットの移譲」ができて初めて地方圏を守る持続可能な地域づくりとして公共交通となる。

現時点では、国や自治体、市民、交通事業者がみな等しくこのままの状態で地域公共交通を維持するのは無理であるというコンセンサスができており、変革への大きなうねりを感じている。今回の改革は思い切って将来を見つめて、地域を支えるインフラとして守りばかりでなく生活の質の向上(クオリティ・オブ・ライフ)の観点からDX化、EV化、バリアフリー化などの前向きな投資も行い、市民が利用しやすい公共交通としてサステナブルに維持・発展していけるような抜本的な改革が必要不可欠な時期に来たといえるだろう。

2023年8月10日


(一財) 地域公共交通総合研究所